広告を見るデバイスがスマホかPCかで消費者の購買行動に差が出る可能性を示した論文がある。今回は「パソコンで読むよりスマホで読んだほうが口コミに親しみを感じた」と「広告をスマホで見る人にはカラー写真、パソコンなら白黒写真のほうが製品の評価が高まる」という実験結果を検証する。
早稲田大学商学学術院の須田孝徳氏は、青山学院大学経営学部准教授の石井裕明氏、上智大学経済学部准教授の外川拓氏、名城大学経営学部教授の山岡隆志氏らとの共著となる論文「デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響 ―解釈レベル理論による効果の検討―」に取り組んだ理由について、「スマートフォン(以下、スマホ)かパソコン(以下、PC)かというデバイスの違いが、消費者の購買行動に与える影響を『解釈レベル理論』に基づいて確かめたかったから」と語る。
この論文では次の4つの研究結果が実験で確かめられた。
[研究1]スマホのほうがPCよりも物理的・心理的な距離が近いので、そのデバイスを使って知った対象に対してより親しみを覚えた。
[研究2]スマホで読んだほうがPCで読むよりも「口コミ」を身近に感じ、その内容は具体的で副次的なものとして捉えられた。
[研究3]スマホで見る人には具体的かつ副次的に訴える広告、PCで見る人には抽象的で本質的な広告のほうが、広告自体と広告された製品の評価が高かった。
[研究4]実際に漫画アプリのバナー広告で検証すると、PCよりスマホのほうが心理的距離が近い広告に対する購入数が多くなった。
この4つの研究のうち、前回は研究1を解説した。その結果、「ユーザーにとって物理的・心理的な距離の近いスマホのほうが、距離の遠いPCよりも対象に対してより親しみを覚えた」という結果を得ることができた。
引き続き今回は、研究2、研究3を検証する。まず須田氏は、研究2に取り組んだ理由を次のように話す。
「『国』を対象として調査した研究1では、スマホとPCというデバイスによる効果の違いを確認できました。そこで次は、マーケティングの対象にもなる『口コミ』で、同様の結果が得られるかどうか確かめるのが狙いです」
投稿者が違えば口コミへの評価も変わるのか
実験は2021年5月、20~76歳の日本人の男女399人に対してインターネットを通じて行われた。前回紹介した研究1と同様の方法でサンプルをスクリーニングした後、最終的に332人(うちスマホ使用者173人、PC使用者159人)の回答者を分析対象とした。
なお、研究2では「口コミした人(日本人/外国人)の社会的距離の違い」という項目も加えた、二元配置分散分析が行われた。これについて、「『スマホかPCか』と『口コミの投稿者が日本人か外国人か』という2つ(二元)の要因を組み合わせて、その平均値の差を見た」と須田氏は説明する。ちなみにここでの「社会的距離」は、実験参加者が口コミの投稿者と同じ国であれば「近い」、逆に異なる国であれば「遠い」となる。
具体的な実験内容は、まず実験参加者にECサイトで「洗顔クリーム」を選んでいる状況を想定してもらう。そのうえで、「やさしい香りがするので、とても気に入っています。泡立てネットを使って、肌を覆う密度の濃い泡がすぐにできるので、扱いがとても簡単です」という内容の口コミを提示。さらにその信頼性を高めるため、「この口コミへの評価(100点満点):90点」という評価点も示した。
口コミの投稿者は、実験参加者にとって社会的距離が近い日本人投稿者「鈴木健太(東京在住)」と社会的距離が遠い外国人投稿者「Henry Anderson(シアトル在住)」の2パターンに分けられた。
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