商品やサービスの広告を、スマホで見ているときとPCで見ているときとでは、消費者の印象や評価は変わるのか。より強く情報を訴求するには、スマホかPCかで広告の見せ方や伝え方を変えたほうがいいのか。マーケターなら誰もが抱く疑問に、実験と分析で大きなヒントを与えてくれる論文があった。

論文「デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響 ―解釈レベル理論による効果の検討―」を発表した早稲田大学商学学術院助手の須田孝徳氏
論文「デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響 ―解釈レベル理論による効果の検討―」を発表した早稲田大学商学学術院助手の須田孝徳氏

 総務省の「令和2年通信利用動向調査報告書(世帯編)」によると、インターネットの利用者は83.4%となり、その利用デバイスはスマートフォン(以下、スマホ)が81.8%、パソコン(以下、PC)が60.4%、タブレット型端末が28.9%となっている。現在はほとんどの消費者がスマホやPCを利用していることになるが、だからこそこんな疑問が湧く。

 同じ商品やサービスの広告を同じ人が見ても、スマホとPCとでは“ポチり(購入ボタンをクリックし)たくなる”衝動の強さが異なるのではないか。デジタル広告を発信する際に、スマホ用とPC用ではそれぞれに合った見せ方や内容が違うのではないか――。

 こうした疑問に答えてくれるのが、早稲田大学商学学術院の須田孝徳氏らが発表した論文「デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響 ―解釈レベル理論による効果の検討―」だ。なお、この論文は青山学院大学経営学部准教授の石井裕明氏、上智大学経済学部准教授の外川拓氏、名城大学経営学部教授の山岡隆志氏との共著となる。

須田 孝徳 氏
早稲田大学商学学術院助手
2018年成蹊大学経済学部経済経営学科卒業。20年早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。同年より同大学大学院商学研究科博士後期課程に在籍。21年より現職。専門は消費者行動、マーケティング

 須田氏らが出した結論から言おう。

【結論1】PCで見るのとスマホで見るのとでは、消費者の広告や口コミに対する印象や評価が変わる。

【結論2】スマホには具体的な広告、PCには抽象的な広告のほうがより強く消費者に訴求できる。

 以上の結論が導き出された背景には、ある“理論”の存在があった。須田氏がこの論文を書いた動機の1つでもある「解釈レベル理論」だ。

対象との“距離”の違いで印象や評価が変わる

 「スマホかPCかというデバイスの違いが、消費者の反応や購買行動に影響しているのではないかと考え始めたのは2年前です。デバイスの違いに注目した研究論文を大量に読み込んで、『解釈レベル理論を使えば、スマホとPCで消費者の反応や購買行動を分析できるのではないか』とひらめきました」

 そう須田氏が語るように、解釈レベル理論が前述の2つの結論を導き出す鍵となった。この点については法政大学経営学部兼大学院経営学研究科の西川英彦教授も、この論文の推薦コメントで次のように解説している。

デバイスとコンテンツの関係が消費者行動に与える影響を示す

 異なるデバイスで、共通のコンテンツを利用することは効果的でしょうか。もちろん、一貫性を保つため共通のコンテンツにする利点はありますが、実は、デバイスによって効果的なコンテンツは異なるのです。その違いを、解釈レベル理論の心理的距離を用いて、実験により解明したのが須田先生らの論文です。理論が、現実をひもときます。

 彼らは、画面を直接タッチでき心理的距離を近く感じるスマートフォンでは、消費者はコンテンツを低次の解釈レベル(具体的・副次的・目標非関連的)で捉え、一方、心理的距離を遠く感じるPCでは、高次の解釈レベル(抽象的・本質的・目標関連的)で捉えると考えました。つまり、デバイスの違いが消費者の反応に影響を与えるということです。彼らの実験では、実際にその通りの結果が表れています。

 さらに、こうしたデバイスの特性とコンテンツのタイプを一致させることが、消費者の行動に影響を与えることも明らかにしました。

 これらの結果を、3つのオンライン実験と、1つのフィールド実験を通して段階的に解明し、追試も実施されていて、より妥当性の高い研究成果といえます。

 この論文を通して、マーケターがデバイスによる消費者反応の違いを深く理解し、デバイス特性に適した効果的なコンテンツを提供できることを期待します。

(法政大学経営学部 西川英彦教授)

 須田氏は論文の核となる解釈レベル理論について次のように解説する。

 「解釈レベル理論とは、対象と自分との距離の違いによって、その対象への“解釈”が変わるという理論です。対象は、店頭の商品でも広告でも何でもかまいません。距離も、物理的距離や時間的距離、社会的距離など、さまざまに設定できます」

 対象への「解釈」とは、どういう意味だろうか。

 「平たく言えば、考え方や捉え方、あるいは評価です」

 西川教授のコメントにもあるように、解釈レベル理論では、

・距離を近く感じると低次の解釈レベル(具体的・副次的)になる
・距離を遠く感じると高次の解釈レベル(抽象的・本質的)になる

 とされる。

 「具体的」「抽象的」の違いは分かりやすい。「本質的」も理解できるが、「副次的」とはどういうことか。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
41
この記事をいいね!する