ターゲティング広告に代表されるパーソナライズ広告への逆風が強まりつつある今日、「プライバシー侵害の懸念よりメリットのほうを強く感じるのはどんな場合か」というテーマに取り組んだ極めて興味深い論文がある。最初の実験の失敗によって確かめられた新たな事実は、今後のパーソナライズ広告の打ち方の大きなヒントとなった。3回シリーズの最終回をお届けする

「パーソナライズ広告に対する消費者の知覚の多様性」を執筆した、東洋大学経営学部講師の竹内亮介氏
「パーソナライズ広告に対する消費者の知覚の多様性」を執筆した、東洋大学経営学部講師の竹内亮介氏
▼前回はこちら 【第1回】ターゲティング広告は嫌われる? 好かれる? 実験で明らかに 【第2回】ターゲティング広告の効果検証 実験参加者の心理状態を操作する

5つの仮説を確かめる分析結果

 消費者のネット上での行動を追いながら、その興味を推測して情報を表示するターゲティング広告。しかし、消費者の受け止め方(知覚)はさまざまだ。与えられた情報を「ありがたい」と前向きに評価する人もいれば、自分の動きが捕捉されていることに気味の悪さを感じる人もいる。

 果たしてどのような傾向の消費者が、どんな広告メッセージを表示した場合にプライバシー侵害の懸念を抱くのか。あるいは逆に、個人情報の漏洩の可能性よりも情報の有用性のほうを高く評価するのか。そんな疑問に一つの指針を与える論文が、東洋大学経営学部講師の竹内亮介氏の「パーソナライズ広告に対する消費者の知覚の多様性」だ。

 竹内氏は5つの仮説を立て、それを検証するための実験を行った。155人の大学生に対し、制御焦点理論に基づいた操作を施し、促進焦点(前向き)傾向と予防焦点(心配性)傾向の実験参加者を一時的に作り出した。そして促進焦点傾向のA群31人、B群31人、予防焦点傾向のE群29人、F群25人、G群39人の5つのグループに分けた 前回「ターゲティング広告の効果検証 実験参加者の心理状態を操作する」を参照

 実験参加者は広告主であるデジタルカメラメーカー(広告主A)のオンライン店舗で商品の情報を収集した後、事前テストによって選んだ平均的な情報信頼度の「WebサイトA」にアクセスする。そこで広告主Aのバナー広告(パーソナライズ広告)を表示させ、実験参加者に広告主Aのブランドロゴ、製品の画像、広告メッセージを見せる。

 表示させた広告メッセージは、A群とE群が「圧倒的な解像度」(※広告情報の訴求点は「利得が生じる」)、B群・F群は「絶対にブレない想い出」(※同「損失が生じない」)、G群は「圧倒的な解像度」もしくは「絶対にブレない想い出」とした。これらにより、次のグループが確定した。

【促進焦点傾向(前向き)状態になった実験参加者】

・[仮説1]を確かめるための「A群」(31人)→「圧倒的な解像度」を見た
・[仮説2]を確かめるための「B群」(31人)→「絶対にブレない想い出」を見た


【予防焦点傾向(心配性)状態になった実験参加者】

・[仮説3]を確かめるための「E群」(29人)→「圧倒的な解像度」を見た/「広告メッセージの内容」を気にする
・[仮説4]を確かめるための「F群」(25人)→「絶対にブレない想い出」を見た/「広告メッセージの内容」を気にする
・[仮説5]を確かめるための「G群」(39人)→「圧倒的な解像度」もしくは「絶対にブレない想い出」を見た/「個人情報の取り扱われ方」を気にする

 そして、実験参加者全員にデジタルカメラの広告について、以下の3つの「知覚パターン」から答えを選ばせる。

知覚パターン1:プライバシーを侵害してしまうというより、自分に合った情報を提供してくれると感じた

知覚パターン2:自分に合った情報を提供してくれるというより、プライバシーを侵害してしまうと感じた

知覚パターン3:自分に合った情報を提供してくれるのと同時に、プライバシーを侵害してしまうとも感じた

 その結果の人数を示したのが下の「【表1】[仮説1]~[仮説5]の分析結果」だ。

【表1】[仮説1]~[仮説5]の分析結果
【表1】[仮説1]~[仮説5]の分析結果

 ちなみに【表1】中にある一部の数字に「✳」と「✳✳」というアスタリスク(星形の記号)が付いている。それに関する注として、表下に「注)✳は1%水準、✳✳は5%水準で有意に期待度数と異なる」とある。この「1%」「5%」という確率は「制御焦点と広告メッセージの影響を受けない場合に、この実験結果が生じる確率」(竹内氏)を表している。偶然であれば、期待値からこれほど大きく離れた実験結果が出る確率は、1%、5%と非常に低い。従ってこの実験結果は偶然そうなったものではなく、制御焦点と広告メッセージが実験参加者の知覚パターンに影響を与えたと統計学的に判断される。つまり「有意に期待度数と異なる」と考えられるわけだ。

傾向の強さを測るための「期待値」とは

 この表の各セルには上下に数字が入っている。上はその選択肢を回答した人数(観測値)だが、下の数字は何か。

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