フリマアプリ「メルカリ」やネットオークションを使ったCtoC(個人間取引)による二次流通市場の急成長に伴い、「新品を購入する際に、使用後の出品価格(売値)を考慮する」という人が増えている。この新たな消費スタイルを検証した論文がある。そこには商品企画や新品の値付けを行う際のヒントが詰まっている。今回はその前編をお届けする。

論文「二次流通市場が一次流通市場における購買に及ぼす影響」を発表した慶應義塾大学大学院経営管理研究科の山本晶准教授
論文「二次流通市場が一次流通市場における購買に及ぼす影響」を発表した慶應義塾大学大学院経営管理研究科の山本晶准教授

一般消費者が売り手に回って活発に取引する

 近年、「メルカリ」を代表とするフリマアプリやオークションサイトの成長が著しい。経済産業省によると、2012年に登場したフリマアプリ市場は、17年4835億円、翌18年には前年比32.2%増の6392億円と急成長を続けている。こうした動きが「新たな消費(購買)傾向」を生み出しつつある。

 これまで消費者にとって購入の決め手は、主に「欲しい商品の機能や価値がその値段に見合っているかどうか」だった。しかし、自分が使って“用済み”となった際に、フリマアプリやオークションサイトで売却することをあらかじめ想定していれば、話は違ってくるだろう。

 消費者は新品を買う段階で「自分が使った後、ネットに出品したらいくらで売れるか」を意識するようになる。言い換えれば、企業は新商品の企画や値付けを行う際、フリマアプリやオークションサイトでの人気の度合いや売却(落札)価格も考慮する必要が出てくるわけだ。

 では、消費者はネットで売る際の価格をどれくらい意識しているのか。中古での売却価格は、新品を購入する際にどのような影響を及ぼすのか。企業はこうした一般消費者が形成する「二次流通市場」が成長していく中、今後、新商品の企画や価格設定などでどう対応すればいいのか――。

 そんな疑問に指針を与えてくれる論文が、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の山本晶准教授が2020年6月に日本マーケティング学会の『マーケティングジャーナル』で発表した「二次流通市場が一次流通市場における購買に及ぼす影響」だ。

山本 晶(やまもと ひかる)氏
慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。外資系広告代理店勤務を経て、2001年に東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。04年同大学院博士課程修了。東京大学大学院経済学研究科助手、成蹊大学経済学部専任講師および准教授を経て、14年より現職

 山本准教授は研究動機についてこう話す。

 「フリマアプリの台頭で、これまで買い手でしかなかった一般消費者が売り手に回り、活発に取引を行う。これは長いマーケティングの歴史においてあまりなかったこと。そこで、メルカリのようなオンラインプラットフォームに興味を持ったのが研究の始まりです」

 またこの論文を推薦した、連載のナビゲーターで日本マーケティング学会副会長でもある法政大学経営学部兼大学院経営学研究科の西川英彦教授は、以下のようにコメントする。

二次流通市場は脅威だけではなく「機会」をもたらす

 メルカリなどのフリマアプリにより増加している二次流通市場、いわゆる中古市場に対して、メーカーや流通企業は一次流通市場を縮小させる可能性があるため、脅威に感じているかもしれません。あるいは自社が関与できないものとして、見ていないのかもしれません。

 しかし、実は二次流通市場は一次流通市場に新たな「機会」をもたらしています。二次流通市場において値崩れしない商品は、一次流通市場で購入される可能性を高めたり、より高い価格を払ってもよいと思われたりするのです。このことを実験により明らかにしたのが、山本先生の論文です。

 留意すべきは、この現象の成立条件として、消費者が一次流通市場の価格と二次流通市場の価格を容易に対比できる環境があることです。つまり、企業による、消費者が対比しやすい商品名や商品番号などの情報表示や発信が重要になります。この論文を通して、企業が新たな機会を理解した上で、二次流通市場を意識したマーケティング施策に挑戦することを期待しています。

 なお、本論文は日本マーケティング学会マーケティングジャーナル2021ベストペーパー賞を受賞した優れた研究です。

(法政大学経営学部 西川英彦教授)

 それでは、山本准教授の「二次流通市場が一次流通市場における購買に及ぼす影響」についてひもといていこう。

中古市場の43.8%がCtoCのネット販売

 二次流通市場と言えば、自動車や不動産などの高額商品の中古売買は昔から行われてきた。しかし、それらは消費者と消費者の間に中古買い取り販売業者が介在するマーケット。山本准教授が注目したように、消費者と消費者がそれほど高額でもない日用品を直接やり取りする中古品売買がこれほど活発化したのは、フリマアプリやネットオークションが広く世間に認知されるようになってからだ。

 「『リサイクル通信』(リフォーム産業新聞社)が発表した『リユース業界の市場規模推計2021(2020年版)』によると、2020年のリユース市場規模およそ2.4兆円のうち、CtoCのネット販売が43.8%です。もうCtoCのオンライン市場は無視できない規模になっています。その結果、売ることを前提に買う新しい消費者が出てきて、二次流通市場での売れやすさや価値が、一次流通市場における購買の後押しになってきた」(山本准教授)

 実際、メルカリ総合研究所が20年8月に全国の20~69歳、男女1463人に対して実施した「『フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動』に関する意識調査」では、フリマアプリ利用者の52.7%が新品を購入する前にフリマアプリで売値を調べていることが分かった。さらに44.5%が「新品を購入するときにリセールバリューを考える」と答えている。

 この新たな消費動向は、企業の新商品のマーケティングにどのような影響を与えるのだろうか。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
34
この記事をいいね!する