マーケターにとって世界の研究者が発表する「学術論文」は宝の山だ。アカデミックな論文は、活用次第では実務に重要な気付きを与え、仕事に役立つ確かな情報源となり得る。この連載ではマーケティング分野の優れた論文を発掘し、ビジネスパーソンにも分かりやすく読み解いていく。スタートに際し、まずは連載を支える2人の「論文ナビゲーター」に、なぜ今、実務の現場で奮闘するマーケターに論文を通した学術面からのアプローチを勧めるのか、その真意について存分に語り合ってもらった。

現場のマーケターにぜひ読んでもらいたい優れた論文を選定していただく法政大学経営学部の西川英彦教授(写真左)と早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授(同右)
現場のマーケターにぜひ読んでもらいたい優れた論文を選定してもらう法政大学経営学部の西川英彦教授(写真左)と早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授(同右)

 近年、マーケティングの技法は急速に進歩した。さらにコロナ禍でビジネス環境が激変し、これまで以上にドラスチックな進化が求められている現在、マーケティング分野の学術論文が信頼性の高い情報源として注目されている。

 この新連載「マーケティング研究のフロンティア」では、毎回、新たな時代に役立つ論文を取り上げ、執筆した研究者自らの解説を踏まえながらその内容や意義をひもといていく。併せてその論文で示された結果が実務の現場でどのように役立つのかについても可能な限り踏み込んでいく。

 今回、マーケターが注目する価値のある論文の選定を、学術・研究分野で活躍する2人の人物に依頼した。法政大学経営学部の西川英彦教授と、早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授だ。2人の“論文ナビゲーター”に、学究的なマーケティングの論文が実務にどんな貢献をもたらすのか、現場のマーケターはどのようにしてそうした論文を仕事に役立てればいいのか議論してもらった。

海外では論文と接することがリテラシー

――現在、日本のマーケターの方々に論文はどれくらい読まれているものなのでしょうか。

西川英彦教授(以下、西川) 外資系企業では、博士課程のドクター(Ph.D.)やMBA(経営学修士)を取得しているマーケターが多いと聞きます。彼らにとって論文を読むのは当然だと思うのですが、実際はどうだったんですか。

及川直彦客員教授(以下、及川) 私がマッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍していた頃は、アカデミックな論文を読んだ記憶はありません。ただ、マッキンゼーにはナレッジ・データベースがあって、クライアントの課題を解決する際に、クライアントの機密に触れないように配慮した上で、過去のフレームワークや分析といった情報が蓄積されていました。それらをキーワード別に社内で参照できるんです。すごいなと思いました。

――ナレッジ・データベースが共有できると、コンサルティングの強みは増しますね。

及川 その後マッキンゼーを離れて、自分でコンサルティングファームをつくってみたら、マッキンゼーのナレッジ・データベースのようなシステムが欲しいと感じるようになりました。その後、早稲田大学のビジネススクールで商学学術院教授の恩藏直人先生と出会ってからは、いろいろな学術論文の読み方が分かってきました。そのとき、マッキンゼーのデータベースのマスターというか、もっと幅広い膨大なテーマのナレッジが「論文」という形で存在していたことを知りました。「何でこんな貴重なものに気付かなかったんだ」というもったいなさを感じました。MBAを取得した人は、恐らく自分の研究の中で当たり前のように、リテラシーとして論文と接しているのではないでしょうか。

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