女優・清野菜名にとって、2022年は新たなる挑戦と飛躍の年となった。主演作を含む出演映画が4作を数え、まさに「今年の顔」の一人といえる活躍ぶりだろう。30代が目の前に迫り、結婚と出産を経て、ライフステージが大きく変化した。それでも変わらず持ち続けるのがハリウッドへの夢だ。負けず嫌いの性格で、夢を追いかけ続ける。

※日経トレンディ2022年12月号より。詳しくは本誌参照

日経トレンディが2022年の「今年の顔」に選んだ清野菜名
日経トレンディが2022年の「今年の顔」に選んだ清野菜名
女優 清野菜名
せいの・なな 1994年10月14日生まれ、愛知県出身。2016年に、主演映画『東京無国籍少女』(15年公開)で「ジャパンアクションアワード ベストアクション女優賞最優秀賞」を受賞している。ドラマ「婚姻届に判を捺しただけですが」(TBS系、21年)にて主人公の百瀬明葉役を務めるなど、人気女優の地位を確立した。22年11月18日には、平野啓一郎によるベストセラー小説が原作の映画『ある男』(監督:石川慶)が公開された

 現在28歳の女優・清野菜名にとって、2022年は新たなる挑戦と飛躍の年となった。人気漫画を原作とする大ヒット映画の続編『キングダム2 遥かなる大地へ』、ヒロインを務めた『異動辞令は音楽隊!』、名作漫画を松坂桃李とW主演で実写化した『耳をすませば』、そして物語の鍵を握る重要な役どころを演じたミステリー作品『ある男』(11月18日公開)と、なんと主演作を含む出演映画が4作を数えるのだ。これは非常にまれなケース。まさに、「今年の顔」の一人といえる活躍ぶりだろう。

 まず、「今年の顔」に選出していただいて素直にすごくうれしいです。毎年、本当に活躍されている方が選ばれている中、自分もその一人になれたことで、今まで仕事を頑張ってきて良かったなと報われた部分もあります。

 撮影が続き、大変ではありました。こんなにも追い込まれたのは初めてでしたね。でも、演じた役がそれぞれ違ったので、自分の中ですみ分けができましたし、自分が本当にチャレンジしたいという気持ちで挑んでいたので、すべてをつぎ込んで各作品の撮影ができたと思います。

 『キングダム2』にて清野が演じたのは、山﨑賢人演じる主人公の信と出会い、行動を共にするようになる羌瘣。人気の高いキャラクターだけに、演じ方によっては原作ファンから厳しい声も受けかねないところだが、これまでに培ってきた高いアクション力と演技力で見事に務め、高評価を得た。同作は、9月末時点で興行収入が50億円を超える大ヒットを記録している。『耳をすませば』は、スタジオジブリによるアニメ映画としても知られる名作漫画を再現した「あの頃」と、オリジナルストーリーの「10年後」の二重構成で描く意欲作。清野は、25歳となった主人公の月島雫を演じた。羌瘣と月島雫、どちらも演じることにプレッシャーを感じたはずだ。

 『キングダム』は1作目が本当に大ヒットしていたので、2作目も引き続きたくさんの方に見ていただけて、とても感慨深いです。私は、新しい風を吹かせていきたいという気持ちで参加していたので、見てくださった方に少しでもその気持ちが届いていたら、うれしいです。シリーズの途中から参加することもそうですが、羌瘣を演じること自体がプレッシャーでした。羌瘣はとても人気のあるキャラクターで、『キングダム2』製作の速報が流れたときに、『羌瘣は誰が演じるんだ』という声がネットでざわついていて。羌瘣への期待が膨らんでいるのを見て、少し怖くなりました……。

 でも、もちろんやりがいもありました。私はこれまで色々な作品でアクションに挑戦してきましたが、今までやってきたものとは全く別物だったんです。単にパンチやキックをしたり、銃を使ったりするのではなく、羌瘣としてのトレーニングをしっかり積まないと再現することができない難しいものでした。羌瘣は舞うように剣を使うのですが、ただ剣を振るだけではなく、剣の先から体の腕の骨までが全部つながっているイメージ。周りが驚くような人間離れした動きも特徴なので、ワイヤーやリングハーネスなど高度な技術を使って、リズムを崩しながらアクションに取り組みました。

 『耳をすませば』は、今までにないぐらいのプレッシャーでしたね(笑)。アクションは自分の得意分野ではあるので、『キングダム2』はそれでも少し自信を持って臨めたのですが、『耳をすませば』は長年愛し続けているファンの方がたくさんいらっしゃって、それぞれに思い描く雫のイメージがあると思うんです。それを自分が演じていいのかという怖さがありました。でも、雫の10年後に興味がありましたし、あとは純粋にチャレンジしてみたいと思い、出演を決めました。

 私、プレッシャーを感じそうなお話を頂くと挑戦してみようという気持ちになるタイプなんです(笑)。挑戦したい気持ちと怖いと思う気持ちは半々ぐらいなのですが、自信を持ってカメラの前に立つための準備をギリギリまでしています。『キングダム2』や『耳をすませば』のように原作がある作品は必ず原作を見返しますね。やはりある程度、自分の中でのキャラクター像がみんなと共通していないと、共感してもらえないなと思うんです。

 『異動辞令は音楽隊!』のようなオリジナル脚本の作品は、自分がキャラクター作りの先頭に立っていいと思っているので、最初の台本を読んだファーストインプレッションを大事にして、現場に入ってうまくその場を感じながら演じられたらいいなと思って臨んでいます。

自分の思いを伝える重要性

 注目度の高い役どころを演じ切った清野だが、実はつい最近まで役作りに迷いを持っていたという。演技への取り組み方が変わったのは、21年に公開されたオムニバス映画『DIVOC-12』の1作『死霊軍団 怒りのDIY』に参加したことがきっかけだった。

 実は私、前までは役作りに迷っても、分からないと言えないタイプだったんです。不安なまま、合っているのかなと思いながら演技をすると、どうしてもそれが伝わってしまうので、それは良くないなと。

 演技への取り組み方が変わった作品は、『死霊軍団 怒りのDIY』です。この作品はアクションのゾンビもので、ストーリーを当て書きしてくださったんです。私はミラ・ジョヴォヴィッチさん主演の映画『バイオハザード』を見てアクションを目指したのですが、そういうオマージュを入れてくださったり。私に対する愛を反映していただいた作品なので、「これは思いっきり楽しまないといけない」と思って取り組んでみると、すごく楽しくて。一人でどうしようと抱え込むのではなく、監督と「こう思っているんです」というふうに話をすると、一つずつ不安が消えていって、全部出し切れて、どんどんチームワークもできていったんです。

 『ある男』も小説が原作で、撮影前に何度も何度も読み込んだのですが、私が演じた後藤美涼という役は、ポイントポイントで出てくるので、その短い登場時間で、役の背景をどのように見せていこうかということにすごく悩みました。監督が何度もテストをしてくださる方だったので、相談しながら現場でつかんでいった感じですね。自分の考えをきちんと伝えられるようになると、現場での居方も自然と変わっていくんです。自信を持って安心してその場に居られるようになりましたし、共演者の方ともコミュニケーションをとることができるようになって。それまでの私は、とにかく自分に自信がなかったので、すぐ楽屋に戻ってしまう感じだったんです(笑)。

 映画『耳をすませば』が公開された10月14日は、清野にとって28歳の誕生日でもあった。28歳といえば、30代が目の前に迫り、自身の働き方や夢などを改めて考え直す時期。清野も結婚と出産を経て、ライフステージが大きく変化した今、将来についてどのように考えているのだろうか。

 今までは、色々と挑戦したいという欲が強くて、あれもこれもという感じでやってきたのですが、今後はもっと自分に合ったペースで楽しくやれたらいいなと思っています。というのも、これまであまり自分のプライベートの時間を多くとれなかったので、見失うものがたくさんあって。「自分はどうしたいのか」「自分って何をしたら楽しいんだろう」みたいに、自分が分からなくなってしまうこともあったんです。ちゃんとリフレッシュできる場所をつくって、自分の感情が分かる環境にしていきたいですね。

 高校や中学校時代の親友と会ったりもしていますね。仕事だけをしていると、生き方もこの世界だけになってしまう気がして……。そうなるとお芝居で普通の会話をするときに、リアルな会話ができなくなってしまうんです。友達とは何をするでもなく、ショッピングセンターに行ってカフェに入ったり、たわいもない会話をしたり。本当に高校生のときに自分がしていたような遊び方というか。会う人、会う人が昔の自分に戻してくれるんです。昔の自分に戻れるようにというのは意識していますね。

友達との会話がリアルな会話を思い出させてくれる
友達との会話がリアルな会話を思い出させてくれる

アクションに新たな可能性

 『キングダム2』で演じた羌瘣は夢や生きる意味を模索する少女。『耳をすませば』の雫は夢がかなわず悩む役どころだ。どちらの作品も、夢を持って生きようとのメッセージを伝える作品だが、清野自身は女優になった当初と今では夢は変化しているのだろうか。

 ミラ・ジョヴォヴィッチさんに憧れてアクションをやってきたので、ハリウッドでアクションをやってみたいというのは、ずっと変わらずに持っている自分の夢ですね。私、負けず嫌いなんです。なので、夢を追いたい。届かないと燃えます(笑)。

 夢をかなえるために必要なのは、現実的に考えると、やはり英語ですよね。アクションだけではなく、台詞のある役が欲しいので、そのためには英語が少しできるくらいでは駄目だと思っています。昨年までは英語の勉強を頑張っていて、「一人で行っても家を借りられるぞ」ぐらいの自信があったんですけど……(笑)。最近は、慌ただしくほとんど英語に触れられていないんです。流暢に話せるようにならないとスタートラインにも立てないので、今後改めて頑張りたいと思っています。

 俳優としてのビジョンは、『キングダム2』で変化がありました。実は、アクションがないと駄目な自分が不安で、「アクションのない演技をしたい」「アクションを控えよう」と思っていた時期があったんです。そして、アクションは年齢を重ねるとだんだんできなくなるだろうなとも思っていました。でも、『キングダム2』で、今までとは全く違うアクションに挑戦したら、今までの自分をもっとアップデートできた気がして。技術をうまくそこに取り入れていけば、まだまだアクションの幅は広がっていくという実感を得ることができたんです。いつかできなくなるときは必ず来てしまうので、挑戦できるうちはアクションをずっと続けていきたいと思っています。

 『キングダム2』を見て空手を始めたり、アクションやりたいと言ってくれる小学生や中学生の子たちが周りでいたり、手紙を頂いたりもしたんです。「ああ、やっていてすごく良かったな」って報われますし、目指すもののきっかけになれたのならすごくうれしくて。最近は女性が活躍するアクションものが増えているので、もっともっと盛り上げていきたいなと思います。

 アクションものに限らず、私たちは作品を作り続けることが一番大事なのかなと思っています。見てくださる方にとって、何かの作品が少しでもその方の原動力となることがあると思うので……。これからも、作品作りを続けていきたいと思っています。

(写真/中村嘉昭)

(スタイリスト/下山さつき(クジラ) ヘアメイク/神戸春美)

衣装協力/ジャケット14万800円、スカート14万3000円、トップス7万9200円(以上、Plan C:プラン シー)、DECO SANDWICH RING 11万円、DECO CILINDRO RING 9万7900円、DIASPRO RING 13万7500円(以上ALIITA:アリータ)。問い合わせ先はいずれもパラグラフ(PARAGRAPH CO.LTD.)03-5734-1247 ※すべて税込み
注)このインタビューは、「日経トレンディ」2022年12月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版でご覧いただけます。
▼関連リンク タイトル:「日経トレンディ」(電子版)
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