
大阪府八尾市の老舗せっけんメーカー、木村石鹸工業は、2019年12月にヘアケア商品を新発売した。認知拡大を目指し、広告を出稿したのはInstagramやTwitterだ。その結果、売り上げは3倍に増加した。消費者の心を動かしたのは、内容の「正直さ」だった。
木村石鹸工業(大阪府八尾市)に、2019年に中途で入社したばかりの広報・マーケティング担当、鹿嶋友莉江氏は困っていた。
同社は、せっけんメーカーとして初のヘアケア商品「12/JU-NI(ジューニ)シャンプー&コンディショナー」を開発。19年12月に開始したクラウドファンディングでの先行発売では、目標金額30万円を大きく上回る510万円の支援金が集まったが、その後、売り上げは伸び悩んでいた。
「商品の知名度もブランドの知名度もない。さらにジューニ シャンプーは、ターゲットやコンセプトありきで開発した商品ではなく、1人の担当者が、年齢性別関係なく、ただ髪に良いものをと、自分の情熱と信念を貫いて作ったもの。訴求ポイントや、分かりやすい売り文句が全く浮かんでこなかった……」(鹿嶋氏)。既に飽和状態のヘアケア市場で、どう独自性を打ち出し戦えばいいのか。
昔ながらの工場が開発に5年をかけたシャンプー
木村石鹸は1924年の創業後、銭湯の浴場向けの洗剤やクリーニング用の洗剤など、業務用の洗剤を手掛けてきた。94年には家庭用のバス・トイレ・キッチン専用洗浄剤の開発を始めた。工場では、職人が昔ながらの伝統技術である釜たき製法を用い、手作業でのせっけん作りを続けている。製造された「純せっけん」は、家庭用や業務用の洗剤の主原料に使われているという。
2015年には、純せっけんを軸にしたハウスケア&ボディーケアブランド「SOMALI(そまり)」を立ち上げた。石油由来の界面活性剤や合成香料、合成着色料などを使用せず、天然素材だけで作った──洗浄力があるのに肌に優しい商品だ。
SOMALIは容器にもこだわった。木村祥一郎社長が、当時Instagramで「映える」家庭用洗剤がないことに気付き、ボトルのデザインにも力を入れて開発。17年からはInstagramでの商品訴求を始めた。
こうしたSOMALIの製造開発経緯を知り、当時、中途採用の募集をかけていないにもかかわらず、「ぜひこの会社で理想とするスキンケア商品やヘアケア製品を開発したい」と、14年に入社したのがジューニ シャンプーを生んだ多胡健太朗氏だ。もともとアトピー体質があり、肌に優しい商品を作ることをライフワークとしていたという。
ジューニ シャンプーは、多胡氏が入社後、約5年をかけて製品化した商品だ。くせ毛やカラーリングによるダメージなど、一通り考えられる髪のダメージを修復する製品を目指して研究開発を続けた。
せっかく時間と熱量をかけて作った製品だ。広報・マーケティング担当の鹿嶋氏は、なるべく多くのユーザーとの接点をつくろうとTwitterやInstagramで、製造秘話や工場の様子、製品紹介、ユーザーが登場する画像などの投稿を続けた。
より多くのターゲットに向け、商品の良さを訴求したいと手掛けたのがTwitterとInstagramの広告だ。1924年の創業以来、広告出稿は初めての挑戦だった。だが、ここで先の悩みが発生した。既にマーケットには「天然素材」「ボタニカル」「界面活性剤不使用」などをうたい、ヒットしているヘアケア商品が並んでいる。目に留めてもらうには、とがった要素が必要だ。しかし、ジューニ シャンプーについては何をどう伝えればいいのか──。こうした悩みをSNS広告の支援を手掛けるアナグラムの運用型広告事業部の森弘繁氏に相談した。
「合う人と合わない人がいる」と明言する
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