
2021年12月3日発売の「日経トレンディ 2022年1月号」では、「2022-2030大予測」を特集。巨大地震でがれきに埋もれてしまった人間を昆虫が助ける――。そんな未来を目指すのが、昆虫を機械や電子部品などで制御する「昆虫サイボーグ」だ。既に大型カナブンなどの飛行や歩行はある程度制御が可能となり、2030年には数百匹の昆虫で広い範囲を捜索することを目指す。
※日経トレンディ2022年1月号の記事を再構成
巨大地震でがれきの中に生き埋めになったとしても、諦めるのはまだ早い。近くを“救助昆虫”が通りかかれば助かる可能性が出てくる──。あと10年もすれば、そんな防災教育が当たり前になるかもしれない。その核となるのが、昆虫に機械や電子部品を装着して、無線などで制御できるようにする「昆虫サイボーグ」の技術だ。
「日経トレンディ 2022年1月号」の購入はこちら(Amazon)
なぜ昆虫を使うのか。それは、人工のロボットよりも圧倒的に燃料の消費が少なく長時間活動できるからだ。また、障害物を避けて移動する能力を昆虫自身が自然に身に付けている点でも有利だ。現在「レスキューロボット」として開発されているロボットは20~30キログラムと、犬猫より大きなものが多く、がれきの隙間から入って奥を探索するのが難しい。長さ数センチメートルと、昆虫並みに小さなロボットを開発している研究グループもあるが、搭載できる小型の電池では数分しか動作しないものが多い。災害現場で実用化されるには数十年はかかるだろう。
その点、昆虫であればどんな狭い場所にも入っていけるし、飲まず食わずで数日間生きられるタフな種類の虫も多い。この特徴に注目が集まり、最近は各国で昆虫サイボーグの研究者が増えている。
大型カナブンなどの飛行や歩行は既に制御が可能
それらの中で、災害現場での実用化に近いといえるのが、シンガポールにある南洋理工大学に所属する佐藤裕崇准教授らのグループだ。シンガポールでは地震や台風などの災害がほぼ見られないが、2011年3月に発生した東日本大震災では、いち早くレスキュー部隊を派遣するなど、災害救助技術の開発に力を入れている。
佐藤氏は07年に昆虫サイボーグの研究を開始。当初は体長約6センチメートルの「オオツノカナブン」という甲虫を自由自在に飛ばすことを目指した。
■シンガポール南洋理工大学、レステック
例えば、カナブンの視神経に電極を付けて、ある周波数の電気信号を送ると、そのタイミングで飛び立たせることができる。また、羽を折り畳む筋肉に刺激を与えると、飛行中に右や左に旋回させられる。同様に、別の筋肉を刺激して脚を動かすことも可能だ。こうして数年で、カナブンの制御はある程度可能になった。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー