2022-2030大予測 第6回

2021年12月3日発売の「日経トレンディ 2022年1月号」では、「2022-2030大予測」を特集。治療が難しいがんや認知症などに対する医療を、「ナノマシン」が大きく進展させそうだ。ウイルスサイズの極小カプセルに薬剤を搭載し、目的の細胞に届けて治療効果を高められる。がん治療では実用化が目前で、脳神経系疾患の治療や「切らない手術」などへの応用期待も大きい。

※日経トレンディ2022年1月号の記事を再構成

極小のナノマシンが体内を巡り、病気の発見や診断、治療に役立てる「未来の医療」を目指す
極小のナノマシンが体内を巡り、病気の発見や診断、治療に役立てる「未来の医療」を目指す

前回(第5回)はこちら

【2045年はこうなる!】
極小の“病院”が体内を巡り、病気を見つけて即治療する

 治療が難しいがんや認知症などに対する医療を大きく進展させる“道具”として、近年注目されているのが「ナノマシン」だ。約50ナノメートル(ナノは10億分の1)の高分子でできたカプセルで、ウイルスと同程度の極小サイズ。そこに薬剤を搭載したり、体内の目的の場所に運んだりといった様々な機能を持たせられることから、マシンと呼ばれる。

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 研究・開発に取り組むナノ医療イノベーションセンター(川崎市)が、将来の目標に掲げるのは「体内病院」の実現。小さな病院(ナノマシン)が体内を巡り、病気の予兆を早期に発見して、即治療するというコンセプトだ。1960年代の映画『ミクロの決死圏』のようなSFの世界を、ナノテクノロジーで現実化することを目指す。

 実現目標は2045年とまだ20年以上先の話だが、そこに向けて様々な研究が現在進められており、ナノマシンによる医療の進歩の恩恵を受ける機会が訪れるのはそう遠くなさそうだ。

■ナノマシンのイメージ図
高分子ミセルという極小のカプセルで、体内で分解されやすい薬剤も内部に安定的に包み込み、目的の細胞まで運ぶ機能を持つ。50ナノメートル程度のウイルスサイズ (人体イラスト/PIXTA)
高分子ミセルという極小のカプセルで、体内で分解されやすい薬剤も内部に安定的に包み込み、目的の細胞まで運ぶ機能を持つ。50ナノメートル程度のウイルスサイズ (人体イラスト/PIXTA)
電子顕微鏡で見ると
電子顕微鏡で見ると
親水性と疎水性の高分子がつながったひも状のポリマーを水に混ぜると、集まってカプセル状になる性質を利用して作る

狙ったところに薬剤を運ぶ

 既に実用化目前の段階に入っているのが、がん治療への応用。ここでは、ナノマシンの約50ナノメートルという大きさが、まず重要な要素になる。

 体内の血管と細胞の間には、酸素や栄養素が通る隙間がある。正常な細胞では、この隙間が50ナノメートルよりかなり小さい。一方、がん細胞の場合は周囲の血管に100ナノメートル程度と大きめの隙間がある。そこに抗がん剤を搭載したナノマシンを投与すると、正常な細胞の小さな隙間は通らずに、がん細胞にだけ入っていく。つまり、がんの部位に選択的に抗がん剤を届けられるわけだ。

 さらにナノマシンには、搭載した抗がん剤を、がんがある環境のときにだけ放出する機能も持たせられる。例えば、がん細胞ならではの酸性度の高さに反応して、内部で抗がん剤を放出するといった機能だ。

 抗がん剤だけを投与した場合は、小さな隙間を通って正常な細胞にも入ってしまうため、いわゆる副作用が出やすい。ナノマシンなら、正常な細胞への悪影響を抑えることが期待でき、効果が大きいが副作用も大きい抗がん剤も利用しやすくなる。

■がん治療への応用実現は近い
●抗がん剤の場合
●抗がん剤の場合
抗がん剤だけだと血管の小さな隙間を通って正常な細胞にも入ってしまう
●ナノマシンの場合
●ナノマシンの場合
ナノマシンは正常な細胞には入らず、がん細胞の周囲の血管にある大きな隙間しか通らないため、がんの部位に狙いを定めて抗がん剤を運べる
■ナノマシンの抗がん剤ががん細胞を破壊する様子
ナノマシンはがん組織に入り込んで抗がん剤を放出し、がん細胞を破壊する
ナノマシンはがん組織に入り込んで抗がん剤を放出し、がん細胞を破壊する

 抗がん剤を搭載したナノマシンは一部のがんについて治験が現在進んでおり、「5年以内の実用化を期待している」(ナノ医療イノベーションセンターの島﨑眞氏)という。

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