未来の市場をつくる100社 2022年版 第13回

コロナ禍の巣ごもり生活で、日々の癒やしを求める人が増え、ペット市場が拡大した。アフターコロナに向けて、外出の多い元の生活に戻っても、家族であるペットの健康は守る必要がある。そうしたペット需要を掘り起こす、ネコ好きによるネコ好きのためのIoTサービスが登場している。

キャトログはカラーバリエーションも豊富で、自分のネコにぴったりなものを選ぶ楽しさもある
キャトログはカラーバリエーションも豊富で、自分のネコにぴったりなものを選ぶ楽しさもある

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 ネコ好きなら一度は「オフィスにネコちゃんがいたらいいのになぁ……」と思ったことがあるのではないだろうか。そんなネコ好きにとっては夢のような話だが、CCO(Chief Cat Officer)がオフィス内を自由に闊歩(かっぽ)する会社が存在する。それがRABO(ラボ、東京・渋谷)だ。

 ラボはネコ向けの首輪型デバイス「Catlog(キャトログ)」を手がける。CCOのブリ丸くんとおでんくんは、伊豫愉芸子代表にとって家族のような存在でもある。CCOは製品開発のためのデータ提供や撮影モデルなどの業務に日々取り組む。社員たちはそんなCCOの様子に癒やされ、時に励まされながら製品開発にいそしむ。

 伊豫代表は20年以上ネコを飼う愛猫家で、人生のほとんどをネコと暮らしてきた。ネコについて話すときはいつも「ネコ様」と愛情と敬意を込めて呼ぶ。

 キャトログは食事や運動といった動きをAI(人工知能)が読み取る首輪型デバイス。専用のスマートフォンアプリのタイムライン上には「11時 ごはんを食べました」「11時25分 水を飲みました」といった具合に、ネコの動きが逐次記録されていく。

 キャトログは9グラムと軽量小型でネコの触覚器官であるヒゲに当たらないようにした。アプリではネコがくつろいでいる様子や寝ている様子をかわいらしいイラストで示し、飼い主がアプリを開くのが楽しくなるようにするなど、随所に細やかな工夫が光る。

キャトログ・ボードはトイレの下に敷くため、使い慣れた手持ちのトイレをそのまま利用できる
キャトログ・ボードはトイレの下に敷くため、使い慣れた手持ちのトイレをそのまま利用できる

 2019年に発売した首輪型のキャトログに続いて、トイレの下に敷くボード型の「キャトログ・ボード」を21年夏に発売した。2つのデバイスから、ネコの日々の行動と排尿量を管理する。

 なぜ排尿量を記録する必要があるのかといえば、ネコは高齢になるにつれ腎臓病を患うリスクが高まるからだ。水をたくさん飲み、尿量が増えるというのは腎臓病のサインでもある。しかしこうしたサインに気づくのは困難だ。

社名:RABO(ラボ、東京・渋谷)
設立:2018年2月
製品/サービス:首輪型デバイス「Catlog」ほか
市場:ネコの行動を記録して健康を守るIoTサービス

 「ネコ様は人と違って、自分の体調の異変を飼い主に言葉で伝えることができない。異常に気づいたときには病状が進行してしまっていることも少なくない」と伊豫代表は説明する。愛猫の健康リスクにいち早く気づきたいという飼い主のニーズは高く、首輪型とボード型合わせてユーザーネコ数は1万3000匹にまで伸びている。

 こういったデバイスは利用数が増えれば増えるほど、AIの精度が高まっていく。1万3000匹分のデータを保有していることについて「この規模感でネコ様のビッグデータを持つ会社は他にない」と伊豫代表は自信を見せる。

RABOの伊豫愉芸子代表とCCOのブリ丸くん、おでんくん
RABOの伊豫愉芸子代表とCCOのブリ丸くん、おでんくん

 ネコの行動を逐一記録することで健康に役立てるという発想は伊豫代表が大学・大学院時代に専攻した「バイオロギングサイエンス」(動物行動学)に基づいている。バイオロギングサイエンスとは、野生生物に全地球測位システム(GPS)を取り付けて、人が行動を追えない時間帯にどんな暮らしをしているのか、その生態を明らかにするというものだ。クジラに個体識別のタグをつける様子など、動物番組で見たことがある人も少なくないだろう。

 伊豫代表は新卒でリクルートに入社し、新規事業開発の経験を積んだ。大学時代の経験との掛け合わせで「ネコ向けデバイス」という新しい領域に取り組むことを決意。18年2月22日の「ネコの日」にラボを創業した。

 起業した当初も今も「ペットテックの分野は海外が先行しているが、イヌ向けのデバイスが多く、ネコの生態には合わないこともしばしばだ」と話す。確かに首輪ひとつとっても、イヌとネコでは体格差が大きく同じものを転用することは難しい。

 ペットフード協会によると20年の日本におけるイヌとネコの飼育数は推計1813万匹。中でもネコの新規飼育数は19年比で16%も増加したという。17~19年の新規飼育数が横ばい傾向にあったことも加味すると、新型コロナウイルス禍の巣ごもり生活で新たにネコを自宅に迎え入れる人が増えたことがうかがえる。

 ただ新型コロナが徐々に落ち着いてくれば、自然と飼い主の外出の機会も増える。飼い主が出かけているときのネコの様子を把握できるデバイスとして、キャトログの需要は増えるだろうとラボは見込む。

 さらに今後は海外進出を見据える。22年初頭には米国で開催される家電やデジタル技術の見本市CESに初出展する。アプリの英語化や電波関連の法律など現地の規制への対応を進める。伊豫代表はキャトログを「ネコ様を愛するすべての人に届けたい」と意気込む。一日でも長く大切な家族であるネコと暮らせるように、プロダクトを磨き続ける。

(写真提供/RABO)

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