未来の市場をつくる100社 2022年版 第3回

これまでオフィス街の“ランチ難民”を救うキッチンカーが主役だった「移動型店舗」。初期費用の安さや、需要のある時間・場所を狙って営業できる特性に着目し、産直野菜を販売するEC事業者などがOMO(オンラインとオフラインの融合)店舗として活用し始めている。仕掛けるのは、スタートアップのMellow(メロウ、東京・千代田)。移動型店舗の近未来とは。

産直サイトで急成長する「食べチョク」の移動型店舗もテスト展開が始まった
産直サイトで急成長する「食べチョク」の移動型店舗もテスト展開が始まった

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 色とりどりの産直野菜を扱う八百屋から、豊洲市場の仲卸による鮮魚店、自転車専門店、化粧品店、保険相談ショップまで――。

 これらは、よくある商店街の顔ぶれではない。いずれも、顧客が多い時間帯や場所を選んで最適配車される「移動型店舗」のラインアップだ。

 こうしたユニークな移動型店舗を生み出しているのは、オフィスビルやマンションなどの空きスペースと、移動販売車のマッチングプラットフォーム「SHOP STOP」を運営するMellow(メロウ、東京・千代田)。キッチンカーを中心とした1400店以上と提携し、首都圏や東北、関西、九州エリアでサービスを展開している。土地オーナーとの地道な交渉で確保した出店スペースは600カ所以上。周辺住民の可処分所得水準や男女比、キッチンカーの常連率など豊富なデータを蓄積しており、“売れる”場所・時間に“売れる”コンテンツを届けられるのが強みだ。

マンション近くで営業するキッチンカー
マンション近くで営業するキッチンカー
社名:Mellow(メロウ、東京・千代田)
設立:2016年2月
製品/サービス:空きスペースと移動販売車のマッチングプラットフォーム「SHOP STOP」
市場:移動型OMOストア

 コロナ禍以前はオフィス街がキッチンカーの主な配車エリアだった。しかし、コロナ禍でリモートワークが浸透して自宅に“巣ごもり”する人が増えた結果、オフィス街から住宅地へと昼間人口の分散化が起きた。そこでMellowは、マンションの敷地内や公園など、住宅地の空きスペースを新規開拓し、出店を加速してきた。

 こうして住宅地の強化を図ると、「キッチンカーだけでは捉えきれないニーズが見えてきた」(Mellow代表の森口拓也氏)という。もともとSHOP STOPは飲食以外の移動販売車を増やす目的でリブランディングしたものだが、そのコンセプトの実現がコロナ禍で加速した形だ。

 好例が、自転車の修理・買い取り販売を行う移動型店舗。中古の電動アシスト自転車をEC中心に扱うイーチャリティ(横浜市)が、SHOP STOPの仕組みを活用し、2021年4月から「CYCLE PIT」ブランドで都内や神奈川を中心に2台展開している。

 例えば、マンションの駐輪場に壊れた自転車が放置されている光景は、しばしば目にすることだろう。メンテナンスに出したくても、「近くに自転車店がなくて運ぶのが面倒」「買い替えを検討する時間がない」といった理由で、所有者はなかなか片付けられない。マンションの管理組合などにとっては、苦々しい問題だった。

 そこにはまったのが、CYCLE PITだ。マンションや近所の公園など、いつもの行動エリアに移動型店舗が来ることで利用のハードルがぐっと下がる。自転車メンテナンスのプロが接客するため、安心して点検修理の相談ができ、買い取りも行っているため買い替えしやすい。また、CYCLE PITのスタッフは、紙芝居などを使って子供向けに自転車の交通マナーを啓蒙する取り組みも進めている。放置自転車の解消につながるうえ、子供の安全にも貢献できるから、出店場所を提供する管理組合などのニーズを十分満たせるというわけだ。

 CYCLE PITの展開は、運営するイーチャリティにとっても合理的。固定店舗を出店すると家賃や光熱費などがかさむうえ、限られた商圏の顧客だけにしかリーチできない。個別の依頼に応じて出張修理サービスを提供する手もあるが、それでは効率が悪い。その点、移動型店舗なら、固定店舗よりも初期費用やランニングコストを抑えられ、出張修理よりもまとまったニーズに応えられる。また、出店場所を一定期間でフレキシブルに変えることで、新たな顧客層を開拓し続けられるのもメリットとなる。

 実際、都内のマンションで、CYCLE PITは1日で最高26万円もの売り上げをたたき出したという。商品の単価や営業時間は異なるものの、キッチンカーの売り上げ平均が1日3万円だから、8倍以上の実績だ。「リアル店舗よりも移動型店舗の出店を優先し、今後20~30台規模に拡大していきたい」(イーチャリティ)という。

「移動型OMOストア」のメリットは?

 コロナ禍を経て急成長しているEC事業者も、移動型店舗の展開に積極姿勢だ。国内外のD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドの成長過程を見ても、ECだけで成長を続けるには限界があり、多くはある時点でリアルの消費者接点を必要とする。

 ところが、ECネーティブの企業は固定店舗の運営ノウハウに乏しく、出店費用の高さもネックになる。このギャップをうまく解消したのが、店舗スペースを1区画ごと小分けにし、出店費用を抑えながら運営も任せられる「b8ta(ベータ)」など体験型ストアのモデルだ。実は、Mellowも“移動型ベータ”ともいえる取り組みを始めている。

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