ウェブ解析をはじめとしたデジタルマーケティングで、事業の成果に貢献する「ウェブ解析士」は、これまでに4万6000人以上が受験している認定資格だ。連載3回目では、メールマーケティングを導入する6つのメリットと解析方法を紹介した。連載4回目はその補足として、ゼロからメールマーケティングを始める人に向けた基本方針の作り方やシステム選定、関連法律や原稿作りのポイントを紹介する。
ゼロから始めるメールマーケティング
前回の記事をご覧になった読者の方から、「小さな会社ではデータ活用をする文化がない」「予算がなかなかとれない」ということに対する共感や、「こうした状況下だから、始めやすい施策がメールマガジンというのはとても良く分かる」といったお声をいただいた。
Snow Peak USA, Inc. - Global Business Strategic Manager
一方で、「より成果を上げていくためにも、既存システムからグレードアップしたいが、どのように選定すればいいのか分からない」とか、「そもそもの始め方について知りたい」といったニーズについては触れていなかった。そこで今回は、ゼロベースでメールマーケティングを始める方に向けて、6つのステップでポイントを紹介する。
Step1:基本方針を作る
取り決めた方が良いことはたくさんあるが、「a.目的」「b.目標」「c.誰に・何を伝えるか」「d.誰から送るのか」の4つがあれば、とりあえずスタートできる。
「a.目的」…販売促進、ニュースの告知、ファンの育成、継続的な関係性をつくるなど
「b.目標」…配信数、開封率やクリック率、お問い合わせ数、売上を上げるなど
目標は段階的に難易度を上げることをお勧めする。具体的には、立ち上げ当初は毎月1回配信するといった、配信数だけに絞るのがベストだ。なぜなら、毎月1つコンテンツを作るだけでも慣れるまでは少し大変なので、大きな目標は挫折の要因になるからだ。配信に慣れてきたら、売上を○万円作るといった最終目標(KGI)を立てて、それを達成するための要因(KSF)を整理し、実際のアクションとKPIを連動させよう。
「c.誰に・何を伝えるか」
ここでは、誰の・どんな悩みを解決するのか? という、あらゆる事業活動に共通する基本設計をしてほしい。例えば、私が最初にメールマーケティングに携わった会社は、製造業を中心としたモノづくりの現場に、在庫管理システムをはじめとした業務効率化の提案をしていたので、誰に=製造業の現場担当者へ、何を=現場改善ノウハウや業務に役立つ情報を届ける、をコンセプトとして策定した。誰の・どんな悩みを解決するのか? という部分は、社内でも意外と認識が違っていたりするので、この機会にぜひ議論してほしい。
「d.誰から送るのか」
誰からそのメールが送られるのかによって、結果が大きく左右されることがあるので補足しておく。例えば、同じアドバイスをもらうとしても、誰から言われるかで納得度が違った経験はないだろうか? メールもこれと同様だ。もちろん、特定の誰かではなく会社の名前で配信しても良いし、なかにはマスコットキャラクターを設定している会社もある。いずれにせよ、誰から送るべきか? についても併せて議論してほしい。
なお、私が実務をしていたころは自分の名前で配信していたが、担当者が変わっても一貫したキャラクターで配信できるように、メールマガジン担当者の人格として「丁寧でフレンドリー」というキーワードと、「自社の人材観(SPEC)」を持っている人、という定義をしていた。SPECとは、会社の理念を実現するために必要な人財の基本資質のことで、Sincerity(素直・誠実)、Positive(前向きな姿勢)、Enjoyable(何事も楽しむ心)、Curiosity(あふれる好奇心)の頭文字をとったものだ。ここから連想して、人物像を掘り下げた例を紹介しておく。
例)メールマガジン担当の人物像
「S」 どんな意見や相談でも、受け入れてくれる頼りになる人
「P」 現場改善に対して、前向きな気持ちにさせてくれる人
「E」 楽しい文体で、読む人を楽しませてくれる人
「C」 好奇心が刺激される、新しい情報やトレンドを教えてくれる人
Step2:使うシステムを決める
世の中には、このシステムがお勧めですよ、といった情報はたくさんある。しかし、結局のところ、自社に合うものは自社にしか分からないのだ。そこで、使うシステムを決める際の考え方について紹介する。
「a.評価基準をつける」
これまで4つの配信システムを使った経験から、商品軸(金額・使いやすさ・機能)と、会社軸(サポート体制・実績・課金プラン)の両軸から、気になるサービスを3社は比較することをお勧めする。また、評価項目ごとの重要性は会社や利用目的で違うため、どこを重視するのかの優先順位も併せて考えてほしい。以下は、評価シートのサンプルだ。
<金額>
現時点で会社が投資できる範囲か否かを見極める。買い切りタイプのものもあるが、多くはクラウド型で月額制のため、年額(月額×12か月)の視点でも必ず試算する。
<使いやすさ>
実際に使う人が使いやすいと感じることが重要だ。なぜなら、使いにくいと不満になり、使いやすいと運用が長続きしやすいためだ。選定者と実際に使う人が違う場合は、体験版を活用しながら選定プロセスを一緒に行い、合意形成を行うと良いだろう。
<機能>
慣れないうちはたくさん機能があっても使いこなせないため、必要な機能だけに絞る方が失敗しにくい。また、運用レベルに応じて機能拡張ができるかどうかも調べておこう。
<サポート体制>
コストを下げるため、サポートなしのサービスを選ぶ選択肢はある。しかし、初期設定と導入後のサポートの充実度は運用定着に影響するため、慎重に検討いただきたい。
<実績>
メール配信は重要な顧客情報を扱うため、信頼できる会社かどうか見極める必要がある。その指標の一つは、導入実績数、ノウハウ数、会社の規模など。実際にその会社へ訪問して、どういう会社かを確認したり、営業担当者とじかに話したりする方法も良いだろう。
<課金プラン>
機能がメール配信だけの場合は、毎月の「配信数or登録顧客数」で決まることが多いが、ウェブサイトと連動するサービスは「月間PV数」で課金プランが変わる場合もある。自社の成長を想像して、3年でいくら増額しそうか? 試算をしておくと、プラン変更やシステムを乗り換える時期のめどが立つ。なお、自社が毎月どれくらい新しい顧客を獲得しているのか、そこから何件のメール配信ができるのか、1年くらい記録を取っておくと、予測がより正確に立てられるようになる。
「b.機能拡張をする」
機能はたくさんあるよりも、いま必要なものだけに絞られている方が、使いこなしやすく失敗も少ない。そこで、運用レベルに合わせてどのようにシステムの機能を拡張すればいいのか? 自社のステージに合わせた必要最低限の機能について解説する。
<運用開始時の必須機能>
・受信ボックスのメール到達率が高い
・1クリックで配信解除ができる
・自社ドメインで配信できる
メールマーケティングで大切なことは、まずメールが相手に届くことだ。特に、迷惑メールボックスではなく、受信ボックスに届く必要がある。これはシステムに起因する場合もあるので、メール到達率がどれくらいなのか? サービス提供元に平均値を聞こう。
また、配信解除が手軽にでき、再講読もしやすい仕組みなのか。顧客に自社の名前を覚えてもらいやすい自社ドメインで送れるかどうかもポイントだ。
<少し慣れてきた頃(1年~)>
・マルチパート配信ができる
・効果測定ができる
・エラーメール解析ができる
マルチパート配信とは、テキストメールでもHTMLメールでも両方を送れる機能のこと。開封率やクリック率など、メールの配信効果を測定するためにはHTMLメールで配信する必要がある。また、どのような要因で配信がエラーになったのかが分かると、顧客リストのメンテナンスと鮮度の高さを保つことができる。
<本格活用し始めた頃(3年目~)>
・予約機能がある
・複数アカウントで使える
・自社サイトや顧客管理システムと連携できる
このステージになると配信本数が増えるため、予約機能が欲しくなるだろう。また、必然的に関わる担当者が増えるため、複数アカウントで使えるサービスの方が便利だ。なお、MA(Marketing Automation)やABM(Account Based Marketing)、SFA(Sales Force Automation)を活用するステージになると、自社サイトとの連携が必然になってくる。
Step3:配信リストを準備する
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