
まるですし職人のように、ふわりとほぐれるシャリ玉を握るロボットや高速に巻物を作るのり巻きロボット……。回転すし店の厨房で人知れずフル稼働し、日本や世界のすし文化を支えてきたのが「すしロボット」だ。約40年前に誕生したすしロボットが持つ「米飯を扱う技術」は、コロナ禍で新たな方向へと足を踏み出そうとしている。
さまざまなテクノロジーを駆使し、効率化を追究してきた回転すしチェーン。今なお躍進する回転すしの裏側を支える技術が今年、“遺産”として認定された。
日本機械学会は、2021年7月30日に9件の「機械遺産」を発表。これまで、マツダ(当時は東洋工業)が1967年に開発した世界初のロータリーエンジンや、戦後初となる国産旅客機YS-11など、日本で生まれた数々の誇るべき機械を認定してきたが、今年はそれらに、すしのシャリ(酢飯)を自動で握る“すしロボット1号機”である「江戸前寿司自動にぎり機 ST-77」が加わった。大阪で誕生した「回転ずしコンベア機」なども同時に認定された。
江戸前寿司自動にぎり機 ST-77を生み出した鈴茂器工は、今ではすしロボット市場で7割以上のシェアを持つ機械メーカー。55年に創業した同社は、もともとは和菓子の製造機械のメーカーで、「最中あん充填機」やラッピングマシンなどを製造していた。
すしロボットを開発したきっかけは、1970年ごろから始まった政府の減反政策だった。鈴茂器工の創業者である鈴木喜作氏(故人)は、米の生産を抑制するための政策に憤慨し、「高くて手が出なかったすしを誰もが安く食べられるようにすれば、米がより消費されるようになるはず」と考え、すしの加工機械の研究開発をスタートさせた。
シャリ玉を製造する試作機は作れたが、創業者の頭を悩ませたのが、“すし職人が手で握ったような仕上がり”を機械でどう再現するかだった。職人が握るすしは、手や箸でつまんでもくずれないが、口に入れるとほぐれる。「しっかり」と握られていながら、中身は「ふんわり」しているという絶妙な食感にたどり着けないでいた。
試行錯誤を繰り返す中で見つけた素材が、哺乳瓶の吸い口に使われていた柔らかいシリコーンだ。シャリ玉を握る最後の仕上げに使うアームの部分にシリコーンパーツを採用することで、すし職人が手で握ったようなクオリティーを再現することができ、81年にようやく1号機となるST-77が完成。こうして生まれたすしロボットは、同時期にブームになりはじめた回転すしの波に乗って、全国へと一気に広がった。
ロボットなら1時間に4800貫も握れる
すしロボットの最新モデルでも、基本的な作り方は1号機と変わっていない。まず(1)上部のホッパーに入れたシャリをほぐし、(2)1貫のサイズに取り分け、(3)最後にシャリの形に握る、という3つの工程でシャリ玉を作る。
シャリ玉を作る際に特に重要なのは、(1)の過程でいかに空気を含ませるかだ。すし職人は握る前にシャリを手でほぐして空気を含ませる。研究を重ね、樹脂で作った櫛(くし)状の羽パーツでシャリをほぐすようにしたところ、米粒をつぶさずにふんわりと仕上げられるようになったという。
(2)のシャリを取り分ける工程も進化。1号機では金属のカッターを使ってシャリのかたまりを1貫分に切り分けていたが、米粒をカットすると切り口から水分が蒸発しシャリ玉が乾きやすくなってしまう。さらに、切り口は粘り気を持ち皿にくっつくため、箸で持つとすしがくずれてしまうという欠点もあった。そこで、その後のモデルでは3段階に分けたローラーを採用。カッターを使わなくても1貫分のシャリを取り分けられるようになった。
こうして取り分けられた1貫分のシャリは、(3)の工程でやさしく握られる。1号機ではベルトコンベヤーで握りの工程に運ばれ、縦横、上下の2段階で圧縮成形されていたが、最新モデルなどではシャリを穴に落とし、上下から押さえて成形する。完成したシャリ玉はターンテーブルに並び、より省スペースな場所ですしロボットを使えるようにもなった。
1号機がシャリ玉を製造するスピードは1200貫/時だったが、最新モデル「小型シャリ玉ロボット SSN-JLA/JRA」では何と4倍の4800貫/時に進化。握り具合は、「しっかり」から「やわらか」まで、7段階で調整できる機能も搭載された。さらに、「軍艦巻き装置」「わさび装置」などのオプションを組み合わせれば、さまざまなメニューにも対応できる。
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