
飲食業界の中では自動化や省人化で先行していた回転すしチェーン。中でも「ビッくらポン!」「抗菌カバー」など、数々の独自システムで頭一つ抜き出ているのが、業界2位のくら寿司だ。驚くことに、導入している独自システムのほとんどを“自前”で開発している。なぜ、自社開発にこだわるのか。その裏側にはくら寿司の精鋭部隊「テクノロジー開発部」の存在があった。
回転すしの風物詩といえば、テーブルにまるで摩天楼のように積み上げられた、すしを食べ終わった後の皿だろう。会計を依頼すると店員が来て、皿の色や枚数から勘定をはじき出す。だが、くら寿司では全く異なる光景が広がる。テーブルの上に空いた皿は積み上げられていない。
なぜなら、くら寿司には同店の代名詞「ビッくらポン」があるからだ。テーブルやカウンターの脇にある投入口に皿を5枚入れると抽選ゲームを行うことができ、当たりが出たらオリジナルの景品がもらえる。21年11月からは大ヒットアニメ「鬼滅の刃」のキャラクターが描かれたラバーアクセサリーや缶バッジなどのコラボグッズが当たるキャンペーンが行われており、同作のファンや子供を中心に大人気となっている。ビッくらポンの仕掛けで皿の投入が促進されるだけでなく、5枚目を入れて抽選ゲームをしたいがために、もう1皿注文するといった販促効果も出た。
客が喜んで投入口に入れた皿はその後どうなるか。実はくら寿司の店舗には見えない“水路”が張り巡らされており、投入された皿はその水流に乗って洗い場まで自動で運ばれる。くら寿司が特許を持つ「水回収システム」だ。客が退店した後はスタッフが専用の鍵で投入口を大きく開き、テーブルに残ったみそ汁の容器や湯飲みなども流す。皿や容器は食べたらすぐに水流で仮洗いされるため、シャリなどが皿にこびりつかず、洗いやすくなるという利点もある。
水回収システムのさらなるメリットが、女性がたくさん食べても恥ずかしくないという点だ。同社のテクノロジー開発部を統括するマネージャーの橋本大介氏はこう話す。「卓上に積み上げた皿を他人に見られたくないと思う女性のお客様の声をもとに、社長の田中邦彦が中心となって水回収システムを作り上げた」。その後、客が楽しんで皿を投入できるよう、水回収システムと連動するビッくらポンが生まれた。田中社長は、こうした様々なシステムを発案しては、自ら陣頭指揮を執って作ってしまう“ミスターアイデアマン”。こうして、96年、客席から水流で皿を回収してしまうという業界でも類を見ないシステムが、稼働を始めたのだ。
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