
2021年11月4日発売の「日経トレンディ2021年12月号」では、日経クロストレンドと11月3日に発表した「2021年ヒット商品ベスト30」を特集。6位に「マリトッツォ」がランクインした。ローマ発のシンプルスイーツが幅広い層に受け入れられた年だった。簡単にアレンジできる点がヒットにつながり、山崎製パンや大手コンビニなどが相次いで商品化。「すしトッツォ(まぐろ)」のような“魔改造”版も誕生し、消費者と業界全体がブームを楽しんだ。
※日経トレンディ2021年12月号の記事を再構成
【6位】「マリトッツォ」
大手のNBやコンビニ、街中のパン店、ホテルなどが相次いで商品化。2021年のスイーツ業界は、1年を通して空前のマリトッツォブームに沸き立った。
大手チェーンでは(カルディコーヒーファームを運営する)キャメル珈琲が先行して20年11月に発売し、累計125万個以上を販売(21年9月末時点)。それから約半年後の21年6月に全国発売した山崎製パンも、約4カ月間で約2900万個の出荷を記録した。「新商品の売り上げは発売月がピークで、その後は下がる傾向にあるが、マリトッツォは継続して売れている」(山崎製パン)という。
■人気は数カ月にわたって維持
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ローマ発のマリトッツォが使う食材は、軟らかなパンと生クリームだけ。パンで両側から挟まれた生クリームがこぼれんばかりに盛られた様子は見栄えするものの、シンプルなスイーツがどうしてこれほどの人気を集めたのか。その理由を探ると、「シンプルだったからこそ」というこのスイーツの特徴に戻ってくる。
パンも生クリームも幅広い層に受け入れられる食材だ。「派手な見た目ではないので、中年男性も周囲の目を気にせずに買いやすい」(業務用食品卸最大手のトーホー)といった声も聞かれる。
■山崎製パン
■コンビニ大手3社
■キャメル珈琲、ゴディバ
ヒットにつながった要因は何か?
果物を加えるなど簡単にアレンジできる点もヒットにつながった要因だ。「高度な成形技術を必要としない点も含めて汎用性が高いスイーツといえる」(三菱食品)。この評価に代表されるように、マリトッツォは作り手が付加価値を生みやすいと指摘する業界関係者は多い。低コストで作れることもあって、冒頭で示した通り、多くの企業が短期間で商品化した。ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の有木真理氏は、「新商品が次々と出てくるため、消費者には選ぶ楽しみや新鮮さがあった。これは19年頃にはやったタピオカと同じ」と指摘する。
人気が一過性で終わらずに一大ブームへと膨らんだのは、消費者が驚きを込めて“魔改造”と評するほど、アレンジの程度が大きくなっていったから。パンをメロンパンなどに替えるのはまだ軽微な部類で、パンや生クリームとは全く違う食材で作るところも現れた。「次はどんな姿で出てくるのか」と、消費者の期待は高まった。魔改造の象徴的な例が寿司の持ち帰り販売店、古市庵の「すしトッツォ(まぐろ)」だ。シャリと海苔(のり)で漬けマグロなどを挟んでいて、マリトッツォとの共通点は中身の具がこんもりと挟まれている点にとどまる。それでも、「21年9月に期間限定で発売したところ、売り上げ全体に占める割合は金額ベースで従来比約30倍」(古市庵)と好調。当面は販売を続ける予定だ。「マリトッツォ」という言葉の響きの良さも手伝って、「店は自由にアレンジしたものに『○○トッツォ』と名付けて、消費者もその目新しさを喜んで受け入れた」(ぐるなび)といえる。
せっかくのブームなら食べなきゃ損損、作らにゃ損損――。「マリトッツォええじゃないか」とばかりに、消費者も食関連の業界もこぞってこのブームを楽しんだ。
魔改造版が人気を加速
■すしトッツォ(まぐろ)(古市庵)
百貨店ではイベントも開催
