
2021年11月4日発売の「日経トレンディ2021年12月号」では、日経クロストレンドと11月3日に発表した「2021年ヒット商品ベスト30」を特集。毎日のように新型コロナウイルスの感染者数が報道され、人々が自粛に飽きた21年。「Z世代」が発端となり、映画やゲーム、漫画などで、新たな消費行動が開花した。外観を変えない安心感と機能の革新性を両立した製品が数多くヒットするとともに、「動画映え」しやすい、インパクトの大きな製品にも人気が集まった。激動の時代にもかかわらずヒットした30商品を紹介する。
※日経トレンディ2021年12月号の記事を再構成
2020年4月に最初の緊急事態宣言が発出されて約1年半。特に21年の1~9月は、緊急事態も重点措置も全国的にない“普通の日”が僅か28日しかなかった。20年は「巣ごもり消費」が盛り上がったが、ほとんどの家庭は巣ごもりに必要なものを最初の1年で購入。20年は売れたのに21年は前年割れという分野もあった。しかし、このような状況でも、新たな消費トレンドがいくつも生まれている。
一つは、「自分が欲しい物を吟味して買う」という購買行動が、「たまたま出合った商品が気に入れば買う」と変化してきたことだ。その象徴は、間違いなく「TikTok」だ。
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これまでも既存のSNS中で話題の商品が欲しくなるということはあったかもしれないが、それは誰をフォローするかによって変わっていた。一方でTikTokは、利用者の嗜好に合いそうな動画をアプリが選んで次々に表示する「レコメンド」機能が特徴。21年には衣料やお菓子、書籍など、TikTokで人気を得て意外なヒットを飛ばした製品が、数多く生まれた。
レコメンドはアマゾンなどのECサイトでは以前からある機能だが、TikTokや漫画アプリ「ピッコマ」のように、次々と別のコンテンツを見ていくアプリでは特に有効だった。
もう一つ1つ顕著だったのが、昭和・平成時代の定番商品の続編やリメークが数多く成功したこと。単純に昔の商品を復刻するのではなく、最新の技術や価値を取り入れた商品がヒットしている。映画の興行収入ランキング1位は、1995年から始まった「エヴァンゲリオン」の最終回。ゲームでは、88年からあった「桃太郎電鉄」の数年ぶり新作が300万本売れた。この他、60年代の食器(プリントグラス)も50万個以上売れている。
ここまで紹介した「偶発性テック」「新・20世紀文化」といえそうな消費行動は、いずれも若い「Z世代」から始まった。彼らが消費の中心になりつつあるのを感じた1年だった
新開発の商品では、外観を全く変えていないのに革新的な機能を備えたヒットが多かった。「キリン一番搾り 糖質ゼロ」はビール基準の味と原材料を満たしつつ、糖質だけをカット。「アリエール 除菌プラス ジェル」も、抗菌より一歩進んだ除菌機能を液体洗剤に加えたものだ。巣ごもり需要が一巡した後は、手持ちの商品の買い替えが主となる。そのとき、ブランドや外観が変わらない安心感は重要だった。
次ページでは、1位~30位のランキングと各商品の概要を紹介する。
全30商品のランキング発表
【1位】TikTok売れ
短尺動画サイトが利用者1000万を突破し、最強の動画コマースサービスに進化。グミから高級車まで、あらゆるモノが売れた。
【2位】ウマ娘 プリティーダービー
競馬をテーマにした美少女系ゲームが累計1000万ダウンロード突破。競馬へのあくなき追究が支持を広げた。
【3位】シン・エヴァンゲリオン劇場版
新劇場版4部作がついに終結。公開延期も武器にしたマーケ戦略にファンが熱狂し、興行収入100億円を達成。
【4位】昭和・平成レトロブーム
50万個超えのレトロ食器、昭和風景の遊園地……。Z世代が「かっこいい」「かわいい」と肯定的に評価し、ブームが拡大した。
【5位】ahamo/povo/LINEMO
2021年3月の開始前から話題を呼び、大手3社合計で約300万契約を獲得した。競争でスマホ料金の低廉化が一気に進んだ。
【6位】マリトッツォ
ローマ発のシンプルスイーツを、大手企業やコンビニなどが商品化。アレンジ合戦にはテイクアウト寿司店も参入した。
【7位】キリン一番搾り 糖質ゼロ
国内初となる「糖質ゼロ」ビールが、キリンビールの史上最速で累計2億本を達成。味と健康の両立を狙う人が飛びついた。
【8位】BTS
韓流アイドルが国際化によって人気が加速し、ついにミリオンを記録。韓国ブームでは語れない“逆輸入”現象が起きた。
【9位】ピッコマ
定番漫画アプリの一つが、「縦読みフルカラー漫画」の強化で新規ファンを開拓。21年は7カ月で販売金額315億円を達成した。
【10位】Visaのタッチ決済
クレジットカードの非接触決済サービスが、対応カード発行枚数と対応店舗数をともに大きく伸ばした。結果、取引件数が1年で約5倍に急伸。
【11位】カントリーマアム チョコまみれ
老舗クッキーブランドの新たなゆるキャラが購買層を若返らせた。ブランド累計で200億円の売り上げを見込む。
【12位】格安越境EC
韓国コスメ/ファッションの流行で若者の利用が加速。使い勝手を高め、利用者数1900万人を超えたサービスも登場した。
【13位】アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶
泡が湧き出す缶を新開発し、缶ビールの可能性を広げた。動画サイトでも人気になるなど話題先行で即完売状態が今も続く。
【14位】桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~
5年ぶりに登場した「桃鉄」の最新作が販売300万本を突破。親子や友人で一緒に遊びやすく、同シリーズ最大級のヒットに。
【15位】ファインバブルシャワーヘッド
油性インクを洗い落とす効果で人気となり2社で数十万台を販売。3万~4万円の高機能シャワー新市場が誕生した。
【16位】くちばし型マスク
韓国発のくちばしのような立体形状の不織布マスクが、しゃべりやすさとファッション性で人気に。マスクの新カテゴリーを創出した。
【17位】米化オートミール
古典的なシリアルであるオートミールが電子レンジで“お米”のように食べられると話題に。参入メーカーが相次いだ。
【18位】ケイト リップモンスター
ユニークな色名で多色展開した口紅が、約4カ月で累計出荷数100万本突破。逆風のコスメ業界で異例のヒットとなった。
【19位】東京リベンジャーズ
SNSの話題づくりが興行収入44.6億円につながり、21年の実写映画トップに。原作漫画の累計発行部数もアニメ化、映画化で約4.4倍になった。
【20位】アリエール 除菌プラス ジェル
従来の衣料用液体洗剤では難しかった「除菌」ができる洗剤が、消費者の心をつかむ。700万本を出荷し、液体洗剤のトップ争いで優位に。
【21位】Yogibo
ビーズソファなどのシリーズが、ステイホーム特需以降も続伸。売り上げ230億円規模で定番家具の仲間入りを果たした。
【22位】BASE FOOD
栄養をバランスよく摂取できる完全栄養食が、甘い味のパンを追加したことで間食需要も獲得、累計1000万食を突破した。
【23位】丸亀うどん弁当
女性や家族連れが支持し1200万食超を突破。てんぷら付きで税込み390円からと安く、店内で食べるより得だと評判に。
【24位】VLOGCAM
Vlogに最適化し金額シェア1位。高コスパのカメラとしても好評で、スマホに押されがちだったカメラ市場の希望の星になった。
【25位】シームレスせんマグ
ありそうでなかった、分解不要の“一体型栓”を新開発。不満が多かった洗い物の手間を減らし、計100万本を突破した。
【26位】後払い決済
EC拡大を追い風に1兆円市場に成長。「今買える」利便性を、クレジットカードを使わない若年層や主婦層などが支持した。
【27位】ふしぎ駄菓子屋 銭天堂
NHKアニメ化で売れ行きが加速し、シリーズ累計の発行部数が350万を突破。大人目線の描写で親世代も引きつけた。
【28位】テレワークスーツ
オン/オフ兼用のおうち用スーツを大手が次々に販売し、数万着のヒットも。不況の紳士服業界の救世主に。
【29位】ザージーパイ
顔を隠すビッグサイズの「台湾唐揚げ」を扱う店の割合がこの1年で4倍以上に。大手外食チェーンやNBも商品化した。
【30位】ワクチンフィーバー
「約8割発熱」という副反応の説明で解熱剤が品薄に。記録に便利な体温計や、ワクチンマップなどのサービスも好評だった。
評価項目
【売れ行き】:売り上げやシェアをどれだけ拡大したか。どれだけ人を集めたか。売れ行きはどれくらい継続する余地があるか
【新規性】:これまでにない画期的な技術、着眼点、売り方の工夫があったか
【影響力】:他社の追随を呼んだか、あるいは従来にない市場を形成したか。生活スタイルや社会の常識を変えて、世の中に影響を与えたか
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●Z世代を狙う商品にヒットの気配 「ハードセルツァ―」
●もうすぐ30 業界別ヒット予測
【2021年ヒット商品ベスト30】
●「TikTok」「ピッコマ」…“偶発的消費”を巻き起こしたテクノロジー
●「ウマ娘」「シン・エヴァ」「BTS」…超強力エンタメに列島が湧いた
●西武園ゆうえんち、昭和ポップス…「昭和・平成レトロブーム」
●「キリン一番搾り 糖質糖質ゼロ」「アリエール 除菌プラス ジェル」…“見えない大改革”
●2021年の業界別ヒット
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