
「IoT家電」で一歩先を行くシャープ。そのデータ活用法は自社の顧客の体験向上だけにとどまらない。同社は電通と共同でIoT家電の利用データをネット広告の配信に活用するなど、データを生かした新たな収益源の確保に向けた取り組みを始めている。データ利用の許諾を得た約40万台のIoT家電の利用データを使い、広告配信対象者を絞り込むことで、CTR(クリック率)が1.3倍に高まる成果も出ている。
オーブンレンジを週に1回以上利用する25~54歳の女性を対象に大手食品メーカー商品の広告を配信した結果、単純に年齢だけで区切った場合と比較してCTRが1.35倍に上昇した――。
これはある大手食品メーカーによるマーケティング施策の成果だ。「レンジで温めるだけで本格料理が作れる」を売りにした商品の施策で、IoT家電のデータを用いたデジタル広告配信で効果を高められることを確認できた。広告配信対象者の絞り込みに活用したのが、シャープのIoT家電の利用データだ。実際の利用データという事実に基づいて広告を配信できる点が、従来のデジタル広告とは一線を画す。
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デジタル広告はさまざまなデータを基に配信対象を絞り込み、広告主にとってより顧客になりやすい層に効率的に広告を配信できる。この点が、マス型の広告と比較した強みの1つ。ただし、その対象の絞り込みは多くの場合データに基づく推測にすぎない。
推測を基にした広告サービスの代表例が、サード・パーティー・クッキーを用いた広告配信だ。広告会社がブラウザーに付与したクッキーを介して、広くWebサイトの利用動向を収集。例えば、海外旅行に関連した情報を閲覧する傾向がある層を「海外旅行関心層」とくくり、広告の配信対象グループに設定できるようにするといった具合だ。本当に海外旅行に興味があるかどうかは分からない。ただ推測とはいえ、対象を絞らずに配信するよりははるかに効率的だった。
家電利用データで配信対象を絞り込み
一方、冒頭の「オーブンレンジを週に1回以上利用する層」という条件は、実際の行動に基づいた事実だ。その根拠は、シャープ製のネット接続可能なオーブンレンジから取得した利用データにある。IoT家電はネットを介して利便性を提供する代わりに、いつ、どのように使われているかといった利用データを収集し、メーカー側は機能・サービスの開発や改善に生かしている。従来の家電は買った瞬間から時間経過で陳腐化していくのが一般的だったが、IoT家電はネットを介してつながり続けることでデータがたまり、提供されるコンテンツが利用者に最適化されるなど、むしろ価値が高まっていくのが特徴だ。
シャープは取得したデータを自社だけでなく、他社も活用できるマーケティングデータとして提供している。大手食品メーカーは、それを活用した一例だ。実際のオーブンレンジの利用データを用いて広告配信の対象層を絞り込むことで、より確実に広告主がアプローチしたい層に広告を届けられる。それが高いCTRにつながった。
もっともデータだけあっても、直接的な広告配信には活用できない。データをマーケティングに使えるサービスに昇華しているのが、電通が開発したIoT家電データを活用したマーケティングプラットフォーム「domus optima(ドムス・オプティマ)」だ。同プラットフォームは、事前にIoT家電の利用者からデータのマーケティング利用への同意を取得。個人を特定できない形で蓄積した対象者のIoT家電利用データを基に、顧客分析や広告配信を実施できるもの。
IoT家電の多くは、Bluetooth(近距離無線通信規格)などでスマートフォンと接続し、専用のスマホアプリをコントローラーとして用いて操作できる。これにより、iPhoneの「IDFA(Identifier for Advertisers)」などのスマホの広告識別子と、接続しているIoT家電の“対応表“が出来上がる。これをdomus optimaと連係することで、IoT家電のデータを使い、スマホ上で広告を配信できるようになる。
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