家電革命~フードテック2021~ 第6回

IoT家電が個人の食体験を大きく変えている中、店舗で活用される業務用家電も進化を遂げている。その1つが、1909年創業の老舗、ユーハイム(神戸市)が5年をかけて開発した世界初のバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」だ。一人前になるまで10年かかるといわれるバウムクーヘンの職人が有する技を、AI(人工知能)が継承した理由とは。

世界初、店舗で働くバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」
世界初、店舗で働くバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」

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 「焼きたてのバウムクーヘンがこんなにおいしいなんて」。AIオーブン「THEO」のバウムクーヘンを食べた人からはこんな感想が聞かれるという。

 洋菓子のユーハイムは、5年をかけて世界初のバウムクーヘン専用AIオーブンを開発した。2021年3月に開業した名古屋市の「BAUM HAUS(バウムハウス)」をはじめ、国内で8台が稼働中だ。

 バウムクーヘンはドイツが発祥の菓子だ。100年前から小麦粉、卵、バター、砂糖など決められた材料で作られてきた。ユーハイムでも本場ドイツの伝統的レシピを踏襲し、職人たちが焼き方や材料の配合を工夫して、おいしさを追求している。ユーハイム 海外事業室長の町田啓氏によると、「THEOで焼き上げるバウムクーヘンは、『焼きたて』を楽しんでもらうため、材料を変えずに軽さと柔らかさを出せるよう職人とAIとで新たに共同開発したもの」だという。

職人に代わりAIがバウムクーヘンを“手作り”する
職人に代わりAIがバウムクーヘンを“手作り”する

一番の苦労は職人の反発

 開発のきっかけは河本英雄社長の言葉だった。出張で南アフリカ共和国を訪ねた際、「日本から遠く離れた国の子供たちにバウムクーヘンを届ける方法はないか」と考え始めたという。現地で製造できれば雇用が生まれ、地域経済に貢献できるかもしれない。しかし、ユーハイムのバウムクーヘンは専用のオーブンを使って職人が付きっきりで焼き上げている。設備も職人もいない遠方で製造するのは困難だ。そこでオーブンを小型化し、AIを搭載して自動で焼き上げることはできないかとTHEOの開発に踏み切った。

 社内には設備技術を担当する部署がある。全国の工場に担当者がおり、専用オーブンの改良や設備調整は手作業で対応してきた。AI搭載のオーブン開発は当然ながら未経験だ。そこで、アバターロボットの開発などを手掛けるavatarin(アバターイン、東京・中央)をはじめ、大学教授や専門家ほか20~30社の協力を得たという。

 バウムクーヘンは、生地を付けた芯棒を12~13回ほど回転させながら焼き固めて生地を焼いていく。最も技術を要するのがこの焼きの工程だ。AIオーブンでは、職人が焼く生地の焼き具合を層ごとに画像センサーで解析しデータ化した。THEOはこのデータを基にバウムクーヘンを焼き上げる仕組みだ。

 開発には5年を要した。一番苦労したのは、専用機器の開発ではなく、職人たちの理解と協力を得ることだったという。社内に約200人いる職人たちは長年、先輩の背中を見て技を習得してきた。100年前から形やレシピこそ変わらないものの、職人の“勘”で焼き方や材料の配合を変えることで、味を磨き続けてきた自負がある。自分たちの経験に勝る技術はないというのが職人たちの主張だった。

 だが、まず職人歴50年以上の社員の技術をデータ化すると、数値上に焼き方の「癖」が現れた。焼成するタイミングなどが、職人自身が思っていたものと“違って”いたという。それはイメージとして持っていた最適な焼き方ではなかった。本人が無自覚だった「癖」を直すと、よりおいしいバウムクーヘンができた。「技術を数値化することで、職人の技術が向上することが分かり、以降、AIオーブンの開発に職人たちが前向きになった」(町田氏)。今では、AIと職人が互いの技術向上に欠かせないパートナーになっている。

THEOが焼き上げたバウムクーヘン
THEOが焼き上げたバウムクーヘン
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