
国内で秘密計算の技術をけん引するトップランナーといえばNTTの名前が挙がる。約15年前に研究を本格化し、2018年には秘密計算システムの試用提供をいち早く開始した。札幌市など実証実験を通して見えてきた成果を踏まえ、通信事業者として脱クッキー後の「信頼できるデータ空間」の姿を目指す。
中国人のツアー客で町中があふれ、インバウンド需要が高まっていた2018年。NTTは、データを活用した町づくりでパートナー協定を結ぶ札幌市で、秘密計算の実証実験を展開した。小売店4社の購買データを秘密計算で集計。「爆買い」で人気になっていた化粧品などを対象として、購入者の国籍ごとに「ある中国人向け商品がうちでは売れていなかったが、他社の店舗を含めた平均では売れていた」といった分析ができるようにした。
実験に参加した店舗企業の反応は良好で「もっと活用できるように、日ごと商品ごとのより詳細な分析データが欲しい」など前向きな意見が得られたという。「実験は特定の商圏を対象とした限定的なものだったが、将来的にはスマートシティーなどで、多彩なデータをドリルダウンして活用する」(NTT社会情報研究所 社会情報流通研究プロジェクト 主任研究員の森山敏行氏)ことを目指す。
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6G時代に広がるトラステッド・データスペース
秘密計算の技術でセキュリティーやプライバシーを守り、業種や個人の壁を越えてデータを持ち寄り、活用する。そんな「トラステッド・データスペース」を2030年に構築するという青写真をNTTは描いている。同時期には、現在の通信規格「5G」の次世代にあたる「6G」の商用化も期待される。スマホをはじめとした個人が持つ多彩なスマートデバイスからの情報を集約して、生活を支える便利なサービスを実現する。そのために誰もが信頼のおけるデータ分析の空間を提供するという構想だ。
そうした構想を実現する上で課題となるのは、自分のデータが集約されて「何となく気持ちが悪い」という印象を拭うこと。現在、サード・パーティー・クッキー規制が進む背景には、本来は自分しか知り得ないはずのWeb履歴がいつの間にかネット上で流通し、見知らぬ第三者によってデジタルマーケティングに利用されているというユーザー側の違和感がある。「そうした課題について、秘密計算を活用することで技術的に排除できる」とNTT社会情報研究所 チーフ・セキュリティ・サイエンティスト主席研究員の高橋克巳氏は見据える。
セキュリティーとプライバシーを確実に守りながら、システムとしては機械的に最適な情報を消費者に届ける。そんな「従来の広告オークションに変わる新しい広告配信の仕組みをつくる上で秘密計算は親和性が高い」(高橋氏)と見る。
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