「秘密計算」日本発マーケ革命の胎動 第2回

JR東日本は、Suicaのデータを統計処理することで、新型コロナウイルス関連の観光への影響や評価に活用するといったビジネスを推進する方針を示している。その核となる技術の1つが秘密計算だ。そうした新マーケ活用サービスの技術を支えるスタートアップ2社の取り組みを追った。

秘密計算スタートアップのEAGLYSは、JR東日本と共同でSuicaの履歴データによる統計情報を活用したサービス展開を目指す(写真:Shutterstock)
秘密計算スタートアップのEAGLYSは、JR東日本と共同でSuicaの履歴データによる統計情報を活用したサービス展開を目指す(写真:Shutterstock)

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 経済産業省が21年7月に公表した報告書によると、日本の物販系分野のEC化率は約8%にとどまる。「デジタルマーケティングが広がっているが、世の中の大半はリアルワールド。これらのデータを活用することが社会のアップデートとして重要」と、秘密計算の技術を使ったサービスを20年1月から提供しているEAGLYS(イーグリス、東京・渋谷)の今林広樹社長は話す。

【特集】「秘密計算」日本発マーケ革命の胎動
【第1回】 脱クッキー/GAFA対抗の切り札 「秘密計算」で日の丸データ連係
【第2回】 JR東「Suica」が秘密計算で統計データビジネス 技術で日本先行←今回はココ

 同社のソフトウエア「DataArmor(データアーマー)」は、秘密計算技術を用い、データを暗号化したままデータベース上で検索や並べ替えといった処理ができるほか、映像の顔認識などのAI機能も利用できる。ユースケースの1つがメーカー、卸業者、販売店とサプライチェーンの効率化だ。秘密計算によって在庫数や販売数といった競合に漏らしたくない機密情報を安全にデータベース上に集められるようになる。多数のメーカーの製品、多数の販売店のデータを集めることで精度を高めつつ、どの地域でどんな製品が不足しているか、あるいはこの製品が売れそうだなどの分析が可能となる。

 ドライバーの人手不足などによる物流危機が続く中、「競合のビールメーカーが同じトラックで配送するといった共同配送の枠組みにも、秘密計算のシステムが利用できる可能性がある」(EAGLYS取締役の宮島千尋氏)。

 EAGLYSは博報堂DYホールディングスと業務提携したほか、東芝やIT企業のSAPジャパン(東京・千代田)とも協業に向けた検討を進める。それら外部企業との連携を進める中で、最近増えているのが、データの外販ができないかという相談だという。例えば、航空会社のマイレージ。移動にまつわるユーザーの情報を他の企業が持つ購買データなどと組み合わせ、秘密計算で分析することで「どんな人が、どんなきっかけで買い物をしているのかといったより明確なペルソナ分析ができるようになる」(宮島氏)。

EAGLYSの今林広樹社長(左)と取締役の宮島千尋氏
EAGLYSの今林広樹社長(左)と取締役の宮島千尋氏

 20年11月に発表したJR東日本との協業も、その中の1つ。電子マネー「Suica(スイカ)」のカード発行数は8500万枚超。利用駅、日時、年代、性別といった履歴データを、秘密計算で個人が識別されないように集約し、ターミナル駅の利用者と周辺店舗の売り上げの関係などをAIで分析、マーケティングに生かす。具体的な実施の時期は未定だが、JR東日本も、Suicaのデータを使い、新型コロナウイルス感染症関連の観光への影響を調べて自治体に提供するといった統計情報ビジネスを進める方針を示している。EAGLYSとの技術評価を進める中で「計算処理の速度が平文に対しても数倍程度で実用性が高い」とJR東日本は評価しているという。

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