「秘密計算」日本発マーケ革命の胎動 第1回

脱クッキーへの動きが広がる中、セキュリティーやプライバシーを守りつつ、企業間のデータを解析できる「秘密計算」への注目が高まっている。日本発の技術で、海外のIT大手に主導権を握られている状況を軌道修正し、デジタルマーケティングの新時代を切り開くことはできるのか。その可能性を探る。

機密情報や個人情報の漏えいを守りつつ、暗号化したまま多数の企業から集めたデータを解析できる「秘密計算」の技術が注目を集めている(写真/Shutterstock)
機密情報や個人情報の漏えいを守りつつ、暗号化したまま多数の企業から集めたデータを解析できる「秘密計算」の技術が注目を集めている(写真/Shutterstock)
[画像のクリックで拡大表示]

 米調査会社ガートナーは毎年、今後注目される新技術を複数紹介する「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」を公表している。2021年10月に発表した2022年版で、前年に続きリストアップされたキーワードの1つが「プライバシー強化コンピューテーション( PEC、Privacy-Enhancing Computation)」だ。

【特集】「秘密計算」日本発マーケ革命の胎動
【第1回】 脱クッキー時代、GAFA対抗の鍵は「秘密計算」で日の丸データ連係 ←今回はココ

 EU(欧州連合)の個人情報保護ルール「GDPR(一般データ保護規則)」をはじめ、世界中で個人のデータやプライバシーを守るための取り組みが進んでいる。漏えいを防ぎ、安全を担保しながらデータの送信や分析をするための技術の総称がPECだ。ガートナーは、25年までに大規模な企業あるいは自治体などのうち60%がPECを使うようになると予測する。

ガートナージャパンが公表した日本におけるセキュリティー関連のハイプサイクル。「2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」として米ガートナーが選んでいる「プライバシー強化コンピュテーション(PEC)」は「黎明(れいめい)期」の左端に記載している
ガートナージャパンが21年11月9日に発表した日本におけるセキュリティー関連のハイプサイクル。「2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」として米ガートナーが選んでいる「プライバシー強化コンピューテーション(PEC)」は「黎明(れいめい)期」の左端に記載している
[画像のクリックで拡大表示]

 その中核となる技術として期待が高まっているのが「秘密計算」だ。秘密計算を使うと、データを暗号化したうえでサーバーに送信し、暗号化したままでデータを分析できるようになる。これまでも、データを暗号化して送信する技術はネット上で使われてきたが、サーバーの中で分析や計算をするときにはデータの暗号化を解除する必要があった。そうした平文のデータ(暗号化されていない元のデータ)が、サーバーのハッキングなどによって外部に漏えいする可能性があったのだ。秘密計算はデータを暗号化したまま計算するため、たとえ外部に漏れたとしても、その中身を読み解くことはできない。

秘密計算を使うと、データを暗号化したうえでサーバーに送信し、暗号化したままでデータを分析できるようになる
秘密計算を使うと、データを暗号化したうえでサーバーに送信し、暗号化したままでデータを分析できるようになる
[画像のクリックで拡大表示]

 外部に漏らしたくないのであれば、ネットにつながっていない社内の隔離されたサーバーで計算するという方法もあり得るが、用途は限定される。秘密計算の重要なポイントは、複数の企業にまたがるデータを安全な形で分析できることにある。この特性を生かすユースケースの1つがマーケティングだ。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。