
人が分身ロボット(アバター)を使って働く──そんな時代に向けた研究が進む。大阪大学の石黒浩教授が立ち上げたスタートアップのAVITA(アビータ、東京・渋谷)は、まず接客サービスをするCG(コンピューターグラフィックス)アバターの提供を開始する予定。実現すれば、年齢や障害、空間や時間といった制約を超えて、多くの人が社会で活躍できるようになるかもしれない。
大阪大学大学院基礎工学研究科教授(栄誉教授)
──2021年6月、アバターを実用化するための新会社AVITAを設立し、大阪ガス、サイバーエージェント、塩野義製薬、凸版印刷、フジキン(大阪市)の5社から、計5億2000万円の出資を獲得しましたね。AVITAが考えるアバターとは、どういうものでしょうか。
石黒浩氏(以下、石黒) 遠隔で人が操作するロボットを、すべてアバターと呼んでいます。インターネットには多くの仮想世界があり、人々は自分の多様性を享受していますよね。例えば、SNSごとに、人はキャラや人格をちょっとずつ変えて楽しんでいると思います。一方、実世界では人格は、1つしかありません。仮想空間なら、Facebookで居づらくなったらTwitter、Twitterが居づらくなったら別のSNSに行けばいいのですが、現実社会はそうはいかない。そんな状況の中で私たちが目指すのは、アバターを使って色々な自分になることです。CGやロボットのアバターを用いれば、年齢や障害などにかかわらず、誰もが空間や時間の制約を超えて、いつでもどこでも活動できるようになります。好きなことに挑戦でき、失敗しても何度でもやり直せる。そんな社会をつくるために、企業と社会実装しながら研究開発を進めていきます。
──アバターを社会実装するためには何が必要なのでしょうか。
石黒 まず、市場をつくることです。そのために必要なのは、リモートワークとアバターで働くことに慣れること。新型コロナウイルス感染症の流行によってリモートで働くことには慣れましたよね。これからの課題は、自分とは違う姿形であるアバターで仕事をすることに慣れることです。ただ、いきなりロボットのアバターを普及させるのはハードルが高い。そこで、私たちが最初に取り組むのはCGアバターです。まずは、アバターで働くシステムをつくります。最近、Webサイトの問い合わせ対応にチャットボットを導入している企業は増えていますよね。それが、アバターになるイメージです。CGアバターでまずはビジネスを広げて、徐々にロボットのアバターも展開していきます。
──どういった市場にニーズがありそうですか。
石黒 例えば、心や体の悩みを解消するためのカウンセリングや、生命保険や不動産販売、資産運用といったお金の話など、不安やプライバシーに関わることはアバターのほうが話しやすいと思います。
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