ロボット活用最前線 第10回

ロボットが今後、社会のさまざまな分野に広がっていくと、ロボットと関係する人々も増えていく。ユーザーとして、あるいはサプライヤーとして、技術者だけでなくデザイナー、商品企画、マーケター、研究者など、幅広い職種にとってロボットに関する知識が必要な時代がすぐそこまで来ているといえるかもしれない。美術大学の学生にとっても、ロボットは無縁ではなくなってきた。

アート・デザイン表現学科では企業や自治体と共に問題解決を図る演習の授業があり、その選択肢の一つとしてロボットを製作する授業を導入した。中央前列はユカイ工学の青木俊介氏
女子美術大学芸術学部アート・デザイン表現学科では企業や自治体と共に問題解決を図る演習の授業があり、その選択肢の1つとしてロボットを製作する授業を導入した。前列中央はユカイ工学の青木俊介氏
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 2018年から女子美術大学(以下、女子美)の芸術学部で行われている「女子美ロボット研究プロジェクト」。これは、アート・デザイン表現学科メディア表現領域教授の小笠原たけし氏による授業と課外活動の総称だ。このコース(領域)では3年生からプログラムやセンサーなどを学ぶ授業があったが、学生からは「もっと早くから取り組みたい」という要望が出ていた。その声に応えて、希望する学生たちとプロジェクトを立ち上げ、ロボットを製作する課外活動を始めた。19年に正式な授業として採用された。

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ロボット製作を学ぶ理由とは

 「このコースは、イラストやゲームが好きで、ゲーム会社や玩具メーカーへの就職を目指して来る学生が多い」(小笠原氏)。大手の玩具メーカーに就職する学生や、ゲームの会社にイラストレーターとして入社する学生も少なくないという。一方、メディアアートなどのテクノロジーに関する理論面の授業もあるのがこのコースの特徴だ。授業でプログラム設計の概念を学ぶことは、クリエイターとしての強みになる。電機や文具のメーカーの企画職として採用される学生も出てきているという。

 21年現在、女子美ロボット研究プロジェクトの授業は4月から5月にかけて6週間、週5日で集中して行われている。初めはロボット製作キットや3Dプリンターの使い方などの基本を講義し、途中から実際にロボットを製作する演習形式の授業になる。ロボティクスベンチャーのユカイ工学(東京・新宿)の協力も得て、同社社長の青木俊介氏とエンジニア、デザイナーの3人にロボットを作るうえでの心得を話してもらったり、完成後に講評をもらったりしている。

 「設計の概念に慣れていない」「寸法を測るのが苦手」という学生は結構多いのだという。このプロジェクトでもプログラムを組んだり制御したりする段階でそうした「壁」に直面し、消極的になってしまう学生も多い。それでも20年からは、ユカイ工学が販売しているロボット製作キットを使っているので、学生が1人でできることも増えてきた。

 このプロジェクトのコンセプトは、「かわいい」ロボットを作ること。小笠原氏が決めた。実際、学生たちの作品はどれも温かみのあるぬいぐるみのような外見で、モーターを動かさなければロボットとは思えないほどだ。このプロジェクトには同学科のヒーリング表現領域で非常勤講師を務めるテディベア作家の市川和子氏も参画し、縫製などに関する指導もしている。

プロジェクトで製作したロボットの一部。ロボットには名前が付いている。カップ酒を抱える「だめなロボット」(上段右)や、コロナ禍で外出できなくても体がなまらないように一緒に腹筋を頑張るロボット(中段左)、勝手に転がる世話の焼けるロボットなどがある
プロジェクトで製作したロボットの一部。ロボットには名前が付いている。カップ酒を抱える「だめなロボット」(上段右)や、コロナ禍で外出できなくても体がなまらないように一緒に腹筋を頑張るロボット、勝手に転がる世話の焼けるロボットなどがある
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 ロボットに限らず、顧客が商品に愛着と信頼を感じると、「かわいい」という感情が芽生えるのではないかとの仮説の下、企業の商品開発において「どんなインターフェースが愛着を生むか、信頼を持たれるデザインになるか」という問いに対する答えを集める狙いだ。

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