カスタマーサクセスの誤解 第6回

パン食べ放題のベーカリーレストランチェーンを運営するバケット(岡山市)は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で店舗が営業できなくなる中で顧客を見失いかけていた。活路を見いだしたのがオンラインコミュニティーだ。3つの工夫でコミュニティーの活性化に努め、顧客の声が集まりやすい雰囲気づくりに成功。顧客の意見を基に、カスタマーサクセスに取り組むことで突破口を開いた。商品開発や改善の高速化でブランドロイヤルティーを高め、来店頻度や顧客単価を増加させている。

バケット(岡山市)は顧客の声を集めるために、コミュニティーサイトを開設。商品開発や改善に意見を役立てることで、カスタマーサクセスに取り組む
バケット(岡山市)は顧客の声を集めるために、コミュニティーサイトを開設。商品開発や改善に意見を役立てることで、カスタマーサクセスに取り組む

 「私たちはお客様にとって最高のひとときを創造します」

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 これはバケットの親会社であるサンマルクホールディングスの経営理念だ。バケットは焼きたてパンが食べ放題のメニューが売りのレストラン「バケット」を、国内で94店舗展開する。社是として顧客の成功体験の約束を掲げる企業は多いが、同社もその一社。ところが、そのコロナ禍で店舗の営業停止が長期化するにつれ、肝心の「お客様」が見えなくなっていった。

 「来店客から得られるアンケートを大切にする社風だった。ところが店舗の営業停止で、顧客の声を集められなくなり、何を求めているのかが分からなくなった。店舗営業を再開しても、以前のように来店してくれる保証はない。消費者心理がコロナ禍で激変する中、社としてどういう方向に進むべきか分からなくなった」

 バケットの久保田歌織マーケティング部長はこう振り返る。これまで顧客第一を掲げ、顧客のことは熟知しているはずだった。ところが、思い返せば「顧客は他にどのような競合店を利用しているのか。その中で、なぜバケットを選んでくれるのか。その理由すら知らないことに気付いた」(久保田氏)。しかも、コロナ禍ではテークアウトやデリバリーサービス市場が急速に立ち上がるなど、消費トレンドも大きく変化した。顧客に選ばれる企業であり続けるには、顧客の本音から、顧客の成功体験を再定義することが求められた。

コミュニティーにこだわった理由は「双方向性」

 顧客に選ばれる理由を改めて認識し、会社が進む方向性を明確化する。バケットが取り組んだのはオンラインコミュニティーの運営だ。ネットを介して顧客とつながることで、顧客の声が集まりやすくなる仕組みづくりを目指した。これまでも店舗ごとにLINEの公式アカウントを開設するなど、顧客にネットを介して情報発信する仕組みは持っていた。ただ、LINEの企業利用は基本的に一方的な情報発信が中心になる。バケットが重視したのは、双方向のコミュニケーションだ。

 顧客の意見を基にした改善点や商品開発をコミュニティーを介して伝え、利用に結び付けて、次の意見を集めるといったサイクルを生み出す。このような、プロセスマーケティング的な発想でコミュニティーを活用し、よりブランドへの信頼感や愛着を持ってもらうことが目指した世界観だ。それには、双方向性が肝になる。そうした考えの下、2020年10月に開設したのが「バケット広場」だ。コミュニティーの開設には、コミューン(東京・品川)が提供するカスタマーサクセスプラットフォーム「commmune」を活用した。

 バケット広場はパン好きが集まるコミュニティーサイトだ。バケットの店舗で食べた商品やパンを投稿する「バケット日記」、自宅で作ったパンの紹介、バケットの商品か否かは問わず食べたパンの投稿などを通じて、パン好き同士で交流できる。また、バケット側からも新商品情報の告知や、商品企画のアイデア募集、アンケートなどによる顧客の意見を収集している。とはいえ、場だけあっても、活発に投稿されなければ顧客にまつわる情報は集まらない。そこで、バケットはコミュニティーの活性化を目指して、3つの工夫に取り組んだ。

バケットはコミュニティーを活性化させるため、3つの工夫に取り組んだ
バケットはコミュニティーを活性化させるため、3つの工夫に取り組んだ

開設時は集める会員の質が活性化の肝に

 1つ目は「熱量の高い会員集め」だ。コミュニティー運営では、開設時にどのような会員を集めるかが肝要になる。無作為に熱量のない会員を集めても、会話が活性化せずに人気のないコミュニティーになってしまう。そこで、バケットはまず優良顧客層に対して参加を呼びかけた。バケットでは紙のDM(ダイレクトメール)を送るために、来店時のアンケートに住所などを記載してもらっていた。この過去のアンケートを基に、全国の店舗で直近1年間のうち来店回数が多い顧客の上位400人に対して、紙のDMでコミュニティー開設を案内したのだ。

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