カスタマーサクセスの誤解 第2回

花王は2021年1月にDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に本腰を入れるために、大幅な組織改編を実施。DX戦略推進センターを新設した。同センター傘下の組織に設置されたのが「カスタマーサクセス部」だ。カスタマーサクセスは花王が、従来の「モノ主義」の事業モデルから「体験主義」へと大転換を図る、DX戦略の重要なピースの1つ。化粧品ブランド「ソフィーナ」や、白髪染め「ブローネ」などで、デジタルを活用したカスタマーサクセスの取り組みを始めている。

花王は2021年1月にカスタマーサクセス部を新設。DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を推進する重要なピースの1つだ
花王は2021年1月にカスタマーサクセス部を新設。デジタルを活用し、商品利用の体験価値の最大化を狙う

 本特集の1回目ではカスタマーサクセスにまつわる「4つの誤解」を紹介した。その1つ目が「カスタマーサクセス=BtoB(企業向け)の施策」という誤解だ。日用品の王者である花王が専門部署を新設したことは、もはやカスタマーサクセスはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を中心としたBtoB企業のためだけのものではないことの証左にほかならない。ただ、商品購入者に対して、継続利用を促すために伴走する一般的なカスタマーサクセスとは取り組みが異なる。

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 「マスプロダクツは多くの人に共通の幸福を与えるものだった。これからは、UX(ユーザーエクスペリエンス)というパーソナライズした価値を加えることで、多くの種類の幸せに寄与していく」。花王コンシューマープロダクツ事業統括部門DX戦略推進センターDXデザイン部の豊田正博部長は、花王が考えるカスタマーサクセスをこう語る。

「買ってよかった」という体験をつくる

 従来の花王の商売は良い商品を作り、テレビCMで認知を高め、店頭で山積みにして購買につなげるといった具合に、より多くの人に同じ価値の商品を届ける事業モデルだった。ところが、「商品だけでは良さが伝わりにくくなっている」(花王コンシューマープロダクツ事業統括部門DX戦略推進センターカスタマーサクセス部の鈴木直樹部長)という。

 顧客の価値観が多様化し、一律の商品価値だけでは十分な満足感を与えにくくなっている。買って失敗だと感じるのは、商品に対する期待値を実体験が下回ったときだ。逆を言えば、「買ってよかった」という体験が消費財における成功と言えよう。

 多様化する価値観に対応するうえで、花王が注力するのがデジタル活用だ。「これまでの絶えざる革新や研究で開発された商品に、花王らしいUXをデジタルの活用で乗せていく。それにより、顧客との絆をつくり、データで顧客を理解して、さらに改善を加えていく。モノ、体験を循環させることを目指す」と豊田氏は言う。既存の枠組みは変えずに、デジタルという空中戦で新たな価値を付与し、顧客とつながる仕組みづくりでカスタマーサクセスに挑む。

 売って終わりの「モノ主義」の事業モデルから、買った後の体験まで見据えた商品設計、すなわち「体験主義」のモノづくりへと転換を図ろうというわけだ。結果、「顧客のペインポイントの解決や自己達成の一助になり、この商品でよかったと納得してもらうことが、カスタマーサクセスの目指す成果だ」と鈴木氏は説明する。それにより、顧客のブランドに対するロイヤルティーを高め、継続的な購入につなげていく。

「体験主義」への変革担うDX組織を新設

 花王はこうしたマーケティングの大変革を実現するために、2021年1月にDX戦略推進センターを新設した。21年までに社内インフラのデジタル化が一段落し、次の段階として本業であるブランドのDXに本腰を入れ始めた。加えて花王のDX戦略の一翼を担う重要な組織として、カスタマーサクセス部を同センターの傘下に設置した。

 カスタマーサクセス部の傘下には以下の3つの機能組織がある。

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