
仮想空間上で人が経済活動を営むメタバース時代。その世界を目指して今、“街”を仮想空間へコピーする動きが加速している。KDDIが中心となって進めるのが渋谷のバーチャル化。JR東日本もバーチャル秋葉原駅をつくるなど、“陣取り合戦”が始まっている。何でも自由につくれる仮想世界でなぜリアルを反映させるのか、日本流メタバースの胎動を追った。
仮想空間で人々が時間を消費し、経済活動が生まれる。持続可能なメタバースを目指して、仮想空間に“街”をつくる動きが加速している。特集の第1回で、現時点のメタバース化への流れは、「Fortnite(フォートナイト)」や「Roblox(ロブロックス)」といったゲームが基点となって進んでいると話したが、リアルと地続きの方が多くの人がなじみやすく、また経済活動を生みやすいという考えからだ。
バーチャル上の街づくりで既に大きく進み始めているのが、「バーチャル渋谷」。KDDIと一般社団法人渋谷未来デザイン(東京・渋谷)、一般財団法人渋谷区観光協会(東京・渋谷)を中心とする「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が、2020年5月にオープンした渋谷区公認の仮想世界プラットフォームだ。
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コロナ禍でも“密”に集まれる第2の渋谷が誕生
バーチャル渋谷は、クラスター(東京・品川)が展開するメタバースプラットフォーム「cluster」上につくられたワールドで、渋谷を象徴するスクランブル交差点などのスポットを中心に、様々なイベントが開催され、多くの人がアバターとして参加する。
当初は、完全バーチャルの街を想定したものではなかった。リアルの街をデジタル拡張するというのがコンセプトであり、リアルな渋谷の街と連携し、同一コンテンツをバーチャルとリアルで表現するミラーワールドとして企画された。だが、コロナ禍で渋谷の密を避ける“切り札”として、完全バーチャルとなったのだ。
集客力を見せつけたのが、20年10月に初めて行われたハロウィーンイベント。謎解きゲームに加え、人気キャラクターとの記念撮影やバーチャル仮装コンテストなど多様なイベントを実施。その結果、6日間ほどで世界中から40万人が参加した。
コロナ禍で唯一許された人が集まれる“密な空間”の誕生に、「(コロナ禍の)緊急避難的に始めたものの、思った以上に手応えがあった」と、KDDI事業創造本部 ビジネスインキュベーション推進部 部長の中馬和彦氏は話す。また、「渋谷に居を構える多数の企業からバーチャル渋谷でビジネスをしたい、何かできないかといった問い合わせが来た」(中馬氏)という。
想定以上の反応を受け、21年にもバーチャル渋谷でのハロウィーンイベントを実施。渋谷区からの要請もあり今回もバーチャルを中心に行った。21年10月16日から31日までの期間で、延べ55万人を動員するなど、集客力の高さを示した。
カラオケボックスがメタバース世界への入り口に?
今後のリアルとの連携に先駆け、一部先行して取り組んだことがある。1つは、アバタープラットフォーム「AVATARIUM」(関連記事:「ビームスが挑むメタバース・コマース 意外と売れた、2つの発見」)と連携し、アバター制作のためのスキャンブースを渋谷区役所庁舎や東急プラザ渋谷などに設置したことだ。これにより、3DCGの知識などがなくても自分のアバターを誰でも簡単に制作・所有でき、バーチャル空間での楽しみ方の幅が広がる。さらに、アニメ映画『劇場版 ソードアート・オンライン ープログレッシブー 星なき夜のアリア』や『名探偵コナン』とコラボし、自身のアバターにキャラクターのコスプレをさせて楽しめるようになった。
さらに画期的なのが、生アバターライブだ。
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