若者を選挙に呼び込め 投票率アップ大作戦 第1回

衆院選が目前に迫ってきた。前回2017年10月の衆院選投票率は53.68%、19年7月の参院選投票率は48.80%と、投票率の低迷が続いている。なんとか低投票率を脱しようと、各県選挙管理委員会が対策に乗り出している。無関心の状態から関心を持って投票所に足を運ぶという態度変容を促すには、マーケティングのメソッドが有効だ。過去10年6回の国政選挙の都道府県別投票率ランキングも公開する。

衆院選直前。どうすれば投票率は上がる?(写真/Shutterstock)
衆院選直前。どうすれば投票率は上がる?(写真/Shutterstock)

 「前年に全都道府県で最下位だった栃木県が41位に浮上した一方、茨城県が再び“定位置”の最下位に」――。民間の調査会社ブランド総合研究所(東京・港)が2021年10月9日に発表した都道府県の魅力度ランキングは、毎年トップの北海道より最下位の県が脚光を浴びる“恒例行事”となっていたが、21年は様相が違った。前年の40位から44位に下がった北関東の一角、群馬県の山本一太知事が、「根拠の不明確なランキングで本県に魅力がないと誤った認識が広がることは、県民の誇りを低下させる他、観光業など経済的な損失にもつながる」と調査結果に疑義を呈し、「法的措置も含め検討」と踏み込んだ表現で怒りをあらわにした。

 北関東3県が毎年低スコアになる調査結果に、当事者である自治体が不愉快に思う気持ちは理解できる。だが魅力度調査は、提示した県名に対して「とても魅力的」「やや魅力的」と回答した人の割合をスコア化したものにすぎず、上位が北海道、京都、沖縄であることからも、実質的に人気の観光地ランキングである。観光地として人気の日光が栃木県にあるという認識が薄いといった要因が影響しているだけで、さして気にするほどのものではない。そんな魅力度ランキングより、自治体の長はもっと深刻に受け止めた方がいいランキングがある。以下の表をご覧いただきたい。

過去10年、国政選挙6回の都道府県別平均投票率トップ10
過去10年、国政選挙6回の都道府県別平均投票率トップ10
長らくトップだった島根県を山形県が逆転(記事末尾に全47都道府県ランキングを掲載)出所:総務省 選挙関連資料

 上の表は、過去10年間に行われた国政選挙(衆院選・参院選)6回の都道府県別平均投票率ランキングである。魅力度調査は認知度やイメージの問題だが、こちらは県民の参政意識がそのまま数値化されているといっていい。1回の選挙だけなら投票日当日の天候などにも左右されるが、6回分の投票率、順位を見ればその有利・不利は大方相殺されるだろう。

 衆参6回の平均投票率でトップに立ったのが山形県。直近の19年参院選と17年衆院選でともに1位だった。2位は島根県で、60%を超えたのはこの2県のみである。

 かつて「竹下王国」とも呼ばれた島根県は、1969年以降16回連続で衆院選投票率トップを維持する高投票率県だった。それが1票の格差是正のため鳥取県との合区になった16年参院選で投票率3位、17年衆院選は4位、19年参院選が6位と、ここ数年で投票率王国の座が揺らいでいる。島根県の後退で押し上げられるようにトップに立ったのが山形県、という構図だ。

 山形県は戦後、選挙に際して買収や不当な圧力を排除する運動が盛んで、その名残として参政意識が高いとみられている。近年では、09年に吉村美栄子氏が県知事に当選し、4選を果たした21年1月の県知事選では対立候補にも女性が立ち、全国初の女性同士の一騎打ちという県知事選になった。また県内では山形市より酒田市や鶴岡市など庄内平野寄りの地域で投票率が高く、17年衆院選ではそのエリアに該当する山形3区の投票率が全国289の小選挙区でトップだった。ちなみに山形3区は、あの「加藤の乱」で知られる故加藤紘一氏の地盤で現在は娘の鮎子氏が受け継ぎ、今回の衆院選で3選を目指す。対抗馬となる連合推薦の候補も女性で、注目選挙区の一つになっている。地方議会の女性比率はまだまだではあるが、こうした女性の活躍が県内外から注目されることも投票率アップに一役買っているようだ。

過去10年、国政選挙6回の都道府県別平均投票率ワースト10
過去10年、国政選挙6回の都道府県別平均投票率ワースト10
16年の参院選で合区になった徳島県、高知県が低迷している(記事末尾に全47都道府県ランキングを掲載)

 一方、投票率下位の10県は上表の通り。6回平均の投票率が低い順に徳島県、宮崎県、高知県、青森県と続き、この4県が50%を下回った。ワースト1位の徳島県は、トップの山形県と対照的に直近の19年参院選と17年衆院選でともに最下位だった。徳島県も16年の参院選から高知県と合区になり、19年参院選では高知県出身者の争いになったことも関心低下を招く要因になった。

投票率“最下位”徳島県は親子向け絵本で啓発に乗り出す
投票率“最下位”徳島県は親子向け絵本で啓発に乗り出す

 徳島県としても投票率低下には危機感を持ち、対策に乗り出している。県選挙管理委員会が、県内の高校生、学生らに模擬投票などを通じて選挙を学ぶ「出前講座」を開く他、20年3月には親子向けの啓発絵本「さとしくんのいっぴょう」を制作し、県内の幼稚園や小学校、図書館などに寄贈した。また鳴門教育大学の学生を、選挙啓発を推進する「トクシマ“選挙”学生チーム」に委嘱し、啓発絵本の読み聞かせや紙芝居動画の制作を進めている。くまのさとしくんが主人公の啓発絵本は、長期的な視点で主権者意識を育むことが狙いだが、読み聞かせる親側に主権者意識を改めて持ってもらう効果もありそうだ。

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