持続可能な開発目標(SDGs)に関連する日本企業の研究およびイノベーション力を見てきた本連載。第5回では、情報分析企業であるエルゼビアのアンデーシュ・カールソン氏が、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に関連する研究を分析する。
人口1400万人の東京都は、隣接する神奈川、千葉、埼玉の3県を含めれば人口3700万人。これは世界最大の都市圏に当たり、その経済規模はオランダやスウェーデンなどの1つの国に匹敵する。前職で在日スウェーデン大使館に勤めていた際、政治家や産業界のリーダー、科学者などの訪日団を迎えることが度々あった。視察の初日によくゲストを連れて行ったのが、見晴らしのいい高層ビルのスカイバー。圧倒的なスケール感の街並みに「すごい!」と目を輝かせるゲストたちの興奮ぶりは、かつて娘を初めて夜の渋谷スクランブル交差点に連れて行ったときにそっくりだった。
人口順で見ると、世界50大都市の70%がアジアにある。そして、優れた大都市もそうでない大都市も多いのがアジアの特徴だ。英国の「エコノミスト」誌の調査部門「エコノミスト・インパクト」が2021年にまとめた「世界で最も住みやすい都市」ランキングでは、トップ10のうち8都市がアジア太平洋地域に位置。1位のオークランド(ニュージーランド)に続いて、大阪が2位で、東京はウェリントン(ニュージーランド)と並んで4位だった。その一方で、英国のリスク分析企業のベリスク・メープルクロフトによる自然災害、環境、気候関連のリスクが大きい世界100都市のランキングでは、そのうち99都市をアジアが占めていた。うち37都市は中国、43都市はインドであった。
大都市は環境負荷が高くなりがちだ。陸地面積に都市が占める割合はおよそ3%にすぎない。にもかかわらず、多くの人口が集中しており、エネルギー消費の60~80%、二酸化炭素排出量の75%が都市に起因している。都市のカーボンフットプリント(温暖化ガスの出所)を調査したあるノルウェーの報告書によれば、排出量が最も多いのはソウル(韓国)で、次いで広州市(中国)、ニューヨーク(米国)と続いた。各都市の中でも特に、裕福な地域の排出が多い。12年のヒット曲が描いていた「江南スタイル」はサステナブルなライフスタイルとは到底言えない。
都市が果たすべき役割と責任は、持続可能な開発目標(SDGs)にしっかりと盛り込まれている。目標11「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエント(回復力があること)かつ持続可能にする」は、都市が繁栄と成長を続けながら、同時に資源活用のあり方を改善し、汚染や貧困を減らす方法について、10のターゲットと14の進捗指標を設けている。ターゲットのうち7つは、安全かつ安価な住宅、持続可能な輸送システム、持続可能な都市化、文化・自然遺産の保全、災害レジリエンス、環境影響、緑地や公共スペースへのアクセスといった「結果」に関するもの。残る3つは、国や地域の開発計画の強化、15年に仙台市での国連会議で採択された「仙台防災枠組」に沿った災害リスクの軽減、発展途上国における現地の資材を用いた持続可能かつレジリエントな建造物の整備支援といった、目標実現のための「手段」に関するものだ。
多くの都市人口を抱える日本にとって、先進技術を活用した目標11への取り組みは重要だ。中国や韓国との競争が激しくなる中で、未来の都市を構築し、東京をはじめとする日本の都市が「すごい」と言われ続けるために、これからどのような思考や投資が必要だろうか。
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