多くの企業において、デジタルでビジネスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するなか、マーケティングに期待される役割が大きく変わってきている。そこで、B2BとB2Cの領域を飛び越え、第一線で活躍するマーケターにインタビューを行い、B2BとB2Cマーケティングの違いや、今後の見通しを明らかにする。第3回は、シルク・ドゥ・ソレイユのマーケティングなど異色の経歴を持つ、ピュブリシス・グループ・ジャパンのチーフ・ストラテジー・オフィサーの安藤正弘氏に話を聞いた。
ピュブリシス・グループ・ジャパン チーフ・ストラテジー・オフィサー
――安藤さんは、広告代理店の大広でキャリアをスタートした後、ナイキジャパン、シルク・ドゥ・ソレイユ、日本コカ・コーラなどでブランドコミュニケーション戦略やクリエイティブ開発を統括してきました。エージェンシー、クライアントの双方の立場からマーケティングに携わってきたということですが、なかでも、シルク・ドゥ・ソレイユはかなりユニークな経歴だと思います。そこでは実際にどのようなマーケティングをしていたのでしょうか。
安藤正弘氏(以下、安藤) 当時は、シルク・ドゥ・ソレイユが東京ディズニーリゾートのそばに「ZED」という常設会場を作ろうとしていました。常設会場はラスベガスで成功事例はありましたが、アジアで初めての取り組みで、シルク・ドゥ・ソレイユではマーケティングができる人を探していたのです。「サーカスのマーケティングに関われるチャンスはめったにない」と思い、仕事を引き受けました。
ショーの運営をしているのはオリエンタルランドなので、彼らと一緒に企画を含めて考えることが多かったですね。マーケティングは、お客さんを劇場に連れてくるのが仕事。広告・宣伝はもちろん、修学旅行などの団体客を呼ぶために旅行会社への営業活動などもしていました。ラスベガスの会場では長期滞在する人が空いた時間にショーを見ることが多かったのに対し、日本の場合は東京ディズニーリゾートに行くついでにショーを見てもらうということが難しくて非常に苦労しました。
――シルク・ドゥ・ソレイユ以外にもナイキジャパンや日本コカ・コーラなどで活躍されていましたが、外資系企業の場合、マーケティング戦略やクリエイティブに日本法人の意思は、どのくらい反映できるのでしょうか。
安藤 外資系の場合、グローバルでの戦略はありますが、ローカルの市場や顧客に合わせた最適化はやはり必要です。グローバルのクリエイティブが通用しないことも多いので、その場合はローカルで作ります。日本コカ・コーラは、商品のほとんどがローカルブランドなので、広告も日本で作っています。商品のコカ・コーラについてはグローバルで展開していますが、日本での炭酸飲料の飲まれ方は独特なところもあるので、クリエイティブも日本で作っていることが多いですね。
日本は欧米とも文化が違いますし、アジアの中でも中国とは少し違う。日本は規模的に重要な市場なので、独自の戦略が立てられることも多いです。例えば、ナイキジャパンでは「部活キャンペーン」という、体育会の中高生を対象にしたキャンペーンを展開したことがあります。学校の部活動は欧米のスポーツカルチャーとは異なるので、その独特さを本社に何度も説明しました。承認されるまでは数年かかりましたが。
ナイキというと限定モデルのスニーカーなどを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかしビジネスとしては、日常的に使うジャージーなどのウエアも売りたくて、オーセンティックなスポーツブランドになりたいという意思があります。“普段使い”というところで、部活という文脈を使った広告戦略を立てました。
――そうした企業を経て、現在は再びエージェンシーのピュブリシスに戻ってきたのですね。何かきっかけがあったのでしょうか。
安藤 日本コカ・コーラの仕事はやりがいがあったのですが、世の中がデジタルやデータ重視に大きく変化するなかで、テレビなどのクリエイティブだけではなく、新しいことに挑戦したいと自分自身で模索していた時期がありました。これまで培ってきたクライアント側の経験を生かしたい、そして大きく変わったエージェンシーのやり方を再び学びたいという思いが強くなり転職を決めました。
現在は、チーフ・ストラテジー・オフィサーという役割で、メディアの統括も含む戦略部門を見ており、チームメンバーの提案や企画に対して、クライアント視点でのサジェスチョン、アドバイスなどをしています。これまで、クリエイティブメインでブランドコミュニケーションに携わってきましたが、今後はデジタルやデータ、メディアなどを統合してクリエイティブを作る必要があると感じています。
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