多くの企業において、デジタルでビジネスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するなか、マーケティングに期待される役割が大きく変わってきている。例えば「B2Cマーケティング」と「B2Bマーケティング」の垣根がなくなりつつあり、キャリアとしてB2C領域からB2B領域に移るマーケターが増えているのもその一つだ。この連載では、B2BとB2Cの領域を飛び越え、第一線で活躍するマーケターにインタビューを行い、B2BとB2Cマーケティングの違いや、今後の見通しについて聞いていく。1回目は、MMSコミュニケーションズ MSL シニア・コンサルタントの小畑宗雄氏を迎え、現在のB2BとB2Cマーケティングの状況について整理する。
まずは基本として、B2BとB2Cのビジネスの違いについて表にまとめてみた。ここでの「B2C」は、主に食品や消費財、アパレルなどを想定している。
最も大きく異なるのが「顧客」だ。B2Cは「消費者」をターゲットにしているのに対し、B2Bは「企業」や「組織」をターゲットにしている。実際の商品やサービスによって異なるが、一般的にB2Cのほうが金額が安く、B2Bは高額になりがちだ。それ故、B2Bの場合は購入決定までのフローが複雑で、複数の決裁者や承認者がいることが多く、検討期間も長くなる。システムや重機など、扱う商材によっては検討期間が数年かかる例も少なくない。
反対にB2Cの場合は、購入決定までのフローはシンプルで検討期間も短いものが多い。例えば、食品や洗剤、衣類などの消費財は、店舗に入って陳列されている商品を見て認知し、その場で購入を決定するということが日常的に行われている。もちろん、事前にマスメディアの広告などで認知し、しばらくしてから店舗で見かけて購入するというケースもあるが、それでも購買決定までの期間は、B2Bに比べれば短くなる。
また、見方によってはB2BとB2Cの両方の側面を持った業態もある。例えば、一般的なB2Cの場合、最終的なユーザー(購入者)は消費者だが、メーカーが直接取引しているのは販売代理店や小売店など実質的にB2Bであることが多く、「B2B2C」としてビジネスを捉える場合もある。B2B2Cの場合、営業担当から見ればB2Bであるが、マーケティング担当からみれば、最終的な購入の意思決定を行う消費者に対してプロモーションを行うため、B2Cと捉えることになる。
とはいえ、基本的な目的はどちらも同じだ。通信やハイテク、メディア業界を中心にマーケティング業務に従事する小畑宗雄氏(MMSコミュニケーションズ MSL シニア・コンサルタント)は、「LTV(顧客生涯価値)を増やすというマーケティング本来の目的はB2BもB2Cも同じ。ただ、B2Cのほうがプロモーションや広告宣伝などに人材やコストを多く投資する傾向がある」と話す。
B2B、B2Cともターゲット顧客の拡大を目指すのは自然の流れ。「例えば一般消費者を対象にしていた宅食サービスが企業向けに食品配送を開始するようなB2CからB2B領域への拡大。あるいは企業向けサービスを提供していた企業が個人向け商品を販売開始するようにB2BからB2C領域へと拡大することもある」(小畑氏)。さらに、販売代理店を介して商品展開を行っていたB2B2C企業が消費者に商品を直接提供する「D2C」を始めるといった動きも増えている。B2B、B2Cの両者の垣根はここ数年で実はなくなりつつあるのだ。
では、B2BとB2Cとで実際のマーケティング手法に違いはあるのだろうか。
不特定多数に向けて商品を販売することの多いB2C。マーケティングでは、どのような媒体を使ってプロモーションをしていくかを決めるメディアプランニングが重要だ。これまではテレビや新聞、雑誌などを使ったマスマーケティングが中心だったが、近年はネット広告やSNS、購入履歴のデータなどを使うデジタルマーケティングを取り入れているB2C企業も増えている。
一方でB2Bの場合、顧客は限定されていることが多い。そのため、いわゆるB2Cのようなマスに向けたマーケティングではなく、既存顧客や見込み顧客ごとに営業担当者を割り当てて細かくフォローするような「ABM(Account Based Marketing)」が主流になっている。「特に日本国内ではABMの傾向が強く、クライアントのことを熟知した営業担当者が呼ばれたらすぐに駆けつけるような、“クライアントセントリック”な関係を築いていることも多々ある」(小畑氏)
ただ、限定された顧客との関係だけでは、ビジネスの先行きも不透明。クライアントの廃業や取引先の変更、事業縮小などにより、売り上げの大幅減少に陥り事業の存続すら危うくなることも少なくない。見込み客の育成や新規顧客獲得のため、B2BであってもB2Cのようなマーケティング思考が必要な時代になってきている。
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