子供が小遣いで買う駄菓子から、大人も求めるブランドに躍進。誰もが知る台形のチョコが「チロルチョコ」だ。攻めの姿勢を崩さないブランドの新たな戦略とは。
※日経トレンディ2021年9月号の記事を再構成
「台形という1つの形で、年間これほど多くの種類を市場に送り出すメーカーは当社ぐらいでしょう」。揺るがぬ自信を見せるのは、一口大のチョコでおなじみの「チロルチョコ」(以下、チロル)の社長・松尾裕二氏(35)だ。
1962年生まれの同ブランドは、来年60周年を迎える。長らく福岡県の松尾製菓が発売していたが、2004年にチロルの企画・販売を手掛ける新会社を東京に設立。それ以前を含めると、現社長は4代目に当たる。
社長の言葉通り、「コーヒーヌガー」や「ミルク」といった定番の人気だけでなく、つい手を伸ばしたくなる新味を絶え間なく投入しているのが、チロルの強みだ。
これまでに送り出した味の種類は、約400。基本の台形タイプだけで年間20~30種の新味を発売する。アソート商品なども含めると、年間の新商品は40~50種。1年に生産するチョコの数は、実に6億個超にも及ぶ。一辺3センチメートルほどと小ぶりながら、コンビニのレジ横などに置かれれば、誰もが「チロルだ」と認識できる存在感を放つ。まさに“小さな巨人”だ。
新味のアイデアは、開発部のメンバーを中心に自分たちが食べたいものをひねり出す。2面のホワイトボードを埋め尽くした案から、多数決で試作に進むものを選ぶ。「商品化するのは、基本的に2個以上続けて食べられる味。でも2~3年に1度は面白さを優先することがあります」と松尾氏は笑う。楽しさに振り切った味の代表格が「わさびチョコ」。辛すぎて食べられない人も多かったが、それもご愛嬌だ。
そんな楽しいチロルは、前述したように1960年代の福岡県生まれ。一般的な板チョコの価格が50円だった時代に、子供の小遣いでも買えるように、チョコの間にヌガーを挟み込んだ“3つ山”形の菓子を10円で発売したのが始まりだ。

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