ビジネスに「アート思考」を取り入れるために、大切なことが2つある。1つは、経営陣が「ビジネスには感性も欠かせない」と理解していること。もう1つは、次の時代を担うビジネスパーソンが、自分軸を意識した「経営者目線」を持つことだ。書籍『仕事に生かすアート思考 感性×論理性の磨き方』の内容を、一部抜粋・再編集して紹介する。

「自分軸」があるとできること
「自分軸」があるとできること

前回(第1回)はこちら

自分軸で考える

 BODAIのアート思考研修では既成概念、すなわち、これまでの自社の事業の成功要因や、それを基にした自社の方法論、意思決定方法、上司のスタイルなどからいったん離れ、ビジネスから遠い感性(アート)の世界からスタートするのが特徴です。

 なぜアートなのか。「自分軸=アーティストのように考える」という点もありますが、一番大きい理由は、アートはビジネスから遠く、表現の自由があるからです。既成概念を取り払うのに最も適したものなのです。

 最も大事にしているのは「自分軸」です。アーティストが「自分らしさとは」「これは自分らしいテーマや表現なのか」と自問しながら自分軸を柱にアウトプットを続けるように、ビジネスパーソンも自己探索して、自分軸を意識することが重要です。常に自分軸と向き合うことで、「情熱(パッション)」が出てきて、ビジネスの様々な過程で悩み苦しんでも、実現に向けてモチベーションとなり、壁を突破する力となります。受け身ではなく自発的に走り抜き、最後まで粘り、最終的には良い形に持っていける確率が上がります。

 この自分軸を見つける第一歩として、研修の前に自己探索をお勧めしています。自己探索について詳しくは本連載の次回で解説します。

体験・体感を重視する

 BODAIが提唱するアート思考は、一般のビジネススキルとは相当違ったもので、どちらかというと、体験・体感を重視して何度も繰り返し、創造的で独創的なアイデアを生み出すのが「癖のようになる」ことを目指しています。決して「これをすれば必ず創造的になる」ものでもありません。

 そもそも創造性は取り扱いが難しいもの、と思っておくほうがいいでしょう。これは後で詳しく説明しますが、発想や創造性は、追い求めても必ず得られるとは限らない、ある確率で出てくるもの、と思っておくのがちょうどいい感覚です。

 逆に、自分では「創造性のかけらもない」と思っていても、他人から見たら「創造性は出ているよ、面白いよ」というケースもあります。創造性とはなかなか一筋縄では捉えられないと思っていたほうが、本質がよく分かるような気がします。

アート思考の効果(上)と失敗(下)
アート思考の効果(上)と失敗(下)

 アート思考研修でできること 

  • 自己探索=自分の内面と対話して、情熱に火をつけるきっかけとなる
  • センサーが開放される(自分の殻を破る)=これまでの視点や思考をいったん捨て、ビジネスの領域から出て、自由の中に飛び込む
  • 心理的安全性が得られる
  • チームビルディング
  • 人を信頼し、人の創造力に気づくことができる
  • お互いを受け入れ、認め合うカルチャーが生まれる
  • 新規事業、事業構想づくり=アート思考を取り入れ、自分軸、創造性を入れた事業構想をつくる

アート思考をビジネスに取り入れるために

 アート思考をビジネスに取り入れるために大切なことが、大きく2つあります。1つは、意思決定をする経営陣が「ビジネスには感性も欠かせない」と理解していること。もう1つは、次の時代を担うビジネスパーソンが、自分軸を意識した「経営者目線」を持つことです。

(1)ビジネスには感性も欠かせない
 意思決定をする経営陣やミドルマネジメントが、コストや売り上げ、黒字転換の時期など論理的な実現可能性だけを追求し、部下のアイデアを頭ごなしに否定していませんか。面白さや創造性に関心を持たず、「売り上げは? コストは?」といった追及ばかりしていると、言われたほうは萎縮してしまい、発想を出すことが難しくなっていきます。もちろんビジネスですから論理性は大事ですし、売り上げ、コストも考えなければいけません。ですが、最初にそれだけを強調してしまうと、途端に既成概念にとらわれ、論理的な解、つまり「誰に説明しても納得感のあるもの」を探すようになります。結果、創造性が出るはずの発想の広がりが狭められ、創造性のある事業は生まれにくくなります。つまり、意思決定者にとって感性(創造性)の価値を認めることはとても大事なことなのです。

(2)自分軸を意識した経営者目線
 経営者目線とは、会社全体に目を配り、包括的な視点でできるだけ大きな思考の自由度を持つことです。ただ、自由の海は、何らかの軸がないと泳ぎきれません。そのために自分軸を意識し、明確にしておくことが大事です。経営者でなくても、自分軸を意識した経営者目線を持つと、自分のやっている事業も違った目で見え、何か気づきがあるかもしれません。

 しかし、企業で働いていると、会社の方針やクライアントの意向に合わせて物事を考えることが増えてきます。それが癖になってしまうと、自分が心の底から本当にやりたいことや、良いと思うことが分からなくなり、いつの間にか自分の軸を見失っていることがあります。やりたいことすべてを仕事で実現することは難しいですが、自分と対話して自分軸を意識することは、自分らしさを取り戻すことでもあります。視座を高く、自分らしくビジネスと向き合っていきましょう。

『仕事に生かすアート思考 感性×論理性の磨き方』(日経BP刊)
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やわらか頭でビジネスを考えるってなんだろう?
そんな人にしびれる一冊
安宅和人氏
慶應義塾大学SFC環境情報学部教授/
ヤフーCSO(Chief Strategy Officer)

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