決済を変えるフィンテック2021 第4回(写真)

2021年10月4日発売の「日経トレンディ 2021年11月号」では、「フィンテック最前線」を特集。若者の間では、使い過ぎを心配してクレジットカードを敬遠する傾向がある。そこで月次のキャッシュフロー管理を簡便にしたクレカ「Nudge」が登場し、若者の心を動かしている。期日前に都度返済すると利用枠が復活し、返済し続ける限り最大10万円を使える点が新しい。利用額に応じた特典もあり、新しいビジネスの芽も生まれそうだ。

※日経トレンディ2021年11月号の記事を再構成

21年9月から発行を始めた若者向けクレカ「Nudge」
21年9月から発行を始めた若者向けクレカ「Nudge」

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 「上限額は10万円で、使った翌日からATMで返済でき、返済した分だけ枠が復活」。こんな変わった特徴を備えたクレジットカード「Nudge(ナッジ)」が、2021年9月から発行を始めた。

 若い人の間では使い過ぎを心配してクレカを敬遠する傾向がある。世代別ではクレカ利用率は20代が一番低い。その一端にあるのが、締め日と支払日のタイムラグだ。

 一般的にクレカは、毎月15日締めの翌月10日払いや、月末締めの翌月26日払いなどを採用する。つまり締め日直後の買い物は、2カ月先まで支払いが先延ばしになる。このずれをきちんと把握しなければ、正確な月次のキャッシュフロー管理が難しい。結果として預金が足りなくなり、リボ払いやキャッシングに走ってしまう人もいる。

 「であれば、締め日と支払日のタイムラグを埋めれば、若者も安心して持ちたくなるクレカが編み出せると考えた」。発行元のフィンテックスタートアップ、ナッジ(東京・千代田)の沖田貴史社長はこう話す。

 Nudgeの最大の肝は、ATMでの都度返済にある。まずスマホアプリを入手して、名前や住所、電話番号など5項目を入力して本人確認書類をアップロード。最短5営業日でカードが到着したら利用を開始できる。買い物で使った代金をセブンATMで返済するには、ATM画面で「スマートフォンで取引」を選び、表示されたQRコードをスマホアプリで読み取る。専用の番号を入力したらお金を投入するだけだ。

 即時で結果が反映され、枠が復活する仕組みで、例えば利用額7万円で2万円返済したなら、使える枠が3万から5万円に増える。

 Nugdeには毎月の限度額という概念が無く、返済し続ける限りいつでも最大10万円を使える点が新しい。通常のクレカと同じく使った翌月末までなら手数料がかからないが、少しずつでも早く返してカードを使いやすくしておこうという動機付けが働く。

 「若者向けの新しいテクノロジーを駆使した金融サービスを開始すると、小口融資なども多いことから、フィンテックをもじって“貧テック”とやゆする向きがある。こうした風潮を払拭したかった」(沖田社長)

 競合は、即時口座から引き落とす銀行のデビットカードや、チャージした残高の範囲内で使えるプリペイドカード。締め日と支払日のタイムラグを埋められるからだ。Nudgeのアドバンテージは店舗の制約が少ないことだろう。

 デビットカードやプリカは、VisaやJCB加盟店であっても一部で使えないという制約がある。使えない代表例は電気、水道、ガスなどの公共料金や、携帯電話、毎月定額を請求するプロバイダーや各種サブスクリプション型サービス、飛行機の機内販売、高速道路の料金所などだ。事業者によって可否が分かれる場合もあり、沖田社長がクレカにこだわったのはここに理由がある。

 「都度返済で枠が復活する仕組みによって無駄遣いを減らせる点が評価されれば、若者たちのメインカードの座をクレジットカードも十分狙える」(沖田氏)

 利便性向上を狙い、今後はATMに出向かずに済む、銀行振り込みによる都度返済も実現したい考えだ。

目指すのは次世代のチャレンジャーバンク

 同社は今後2年で25万人、3年で50万人の獲得を目指す。20年2月の設立から1年半のシード期ながら、21年に実施した2回の第三者割当増資資金調達で既に累計10億円を調達。将来的には次世代型のチャレンジャーバンクを目指す。

 チャレンジャーバンクとは、スマホだけで完結して使える新しいタイプの銀行。海外では、英Revolut、英Monzo、独N26などが若者に支持され既存の銀行を脅かし、急速に存在感を増している。お得さよりも、安心の要素で勝負するナッジのようなチャレンジャーバンクは日本でも成長の余地がありそうだ。

■チャレンジャーバンクとは?
■チャレンジャーバンクとは?
新しい形のデジタル銀行には、銀行免許を取得し自前システムで運営する「チャレンジャーバンク」と、既存銀行の機能を借りる「ネオバンク」がある。日本では既にネオバンクが相次ぎ登場。チャレンジャーバンクも増えると期待されている

スポーツクラブを支援できる特典も

 脱貧テックのイメージを定着させる秘策として今後力を注ぐのがクラブ機能だ。提携するスポーツチームやアスリートを選び、カードの利用累計金額が一定に達すると特典がもらえる。チームに対しては、ファンが買い物した加盟店から得られる手数料の一部をチームに還元する。利用を繰り返すほどチーム運営に貢献できるわけだ。

 既に、プロサッカーチーム「ブラウブリッツ秋田」(Jリーグ、J2)、プロバスケットボールチーム「岩手ビッグブルズ」(BLEAGUE、B3)、大学体育会チームの「中央大学学友会体育連盟ボート部」、男性格闘家の堀口恭司さん、女性歌手加藤ミリヤさんのファンクラブなどと提携関係を結んだ。

 プロバスケチーム「アースフレンズ東京Z」(BLEAGUE、B2)の場合、カードの累計利用金額が30万円に達すると、そのファンのために全選手からメッセージ動画が送られる。50万円では試合後に全選手との写真撮影、120万円で希望する選手1人と一緒にランチを食べる権利がもらえる。

 同チームの運営会社GWC社長の山野勝行氏は、「提携クレカは最低でも2万~3万枚発行が見込めないと発行できず、1試合の平均動員客数が1500人程度のチームにはハードルが高かった。枚数の制約が無く運用費用もかかからずにファンサービスができる点を評価して提携を決めた」と語る。

Nudge(ナッジ)

■期日前に都度返済できる
買い物をするとすぐに通知が届き、トップ画面に利用総額が更新される
買い物をするとすぐに通知が届き、トップ画面に利用総額が更新される
■利用額に応じて提携チームから特典がもらえる
提携クラブを資金面で応援できると同時にファンが喜ぶ特典がもらえる
提携クラブを資金面で応援できると同時にファンが喜ぶ特典がもらえる
プロバスケチーム「アースフレンズ東京Z」のように、チームに加えて、チアリーダー「Zgirls」も利用者が選べるところもある
プロバスケチーム「アースフレンズ東京Z」のように、チームに加えて、チアリーダー「Zgirls」も利用者が選べるところもある

新しい金融機関をアピールする銀行が続々登場

 ナッジのように、スポーツクラブなどの応援で新しい金融機関であることをアピールする銀行は他にもある。21年5月に開業した、ふくおかフィナンシャルグループ傘下のチャレンジャーバンク「みんなの銀行」だ。即日口座開設ができ、日本で初めてバーチャルデビットカードを同時に発行する工夫を盛り込んだ。

 ナッジのクラブ機能に相当するのが「みんなのCheer Box」。利用者がクラブ応援用の目的別口座を作ると、対象期間の預金残高の平均1%をみんなの銀行が拠出。全ファン口座分の金額を活動支援金としてクラブに提供する。クラブは後日、ファンに対してプレゼントなどを贈る。

 現在、五輪金メダリストの北島康介氏が率いるプロ競泳チーム「Tokyo Frog Kings」と提携するほか、プロeスポーツチーム支援会社CS entertainmentとも所属eスポーツプレーヤーの支援でパートナーシップ契約を結んだ。

みんなの銀行(みんなの銀行)

■ネットで即時口座開設、バーチャルデビットも同時発行は日本初
買い物をするとすぐに通知が届き、トップ画面に利用総額が更新される月額600円のプレミアムサービスも用意する。デビットカードの利用金額のキャッシュバックが0.2%から1%に上がるほか、ATM出金手数料が月15回無料、他行宛て振込手数料も月10回まで無料になる。「Cover」と呼ぶ当座貸越枠を付与し、残高不足の際に最大5万円を立て替え払いする機能も使える。利息は0円
買い物をするとすぐに通知が届き、トップ画面に利用総額が更新される月額600円のプレミアムサービスも用意する。デビットカードの利用金額のキャッシュバックが0.2%から1%に上がるほか、ATM出金手数料が月15回無料、他行宛て振込手数料も月10回まで無料になる。「Cover」と呼ぶ当座貸越枠を付与し、残高不足の際に最大5万円を立て替え払いする機能も使える。利息は0円
■目的口座を通じてチームなどを応援できる
クラブ応援用の目的別口座をつくるには、応援チームごとに決められたフレーズの入った名前を付ける。Tokyo Frog Kingsの場合は「TFK」。五輪金メダリストの北島康介氏(写真左)と提携を結んだ
クラブ応援用の目的別口座をつくるには、応援チームごとに決められたフレーズの入った名前を付ける。Tokyo Frog Kingsの場合は「TFK」。五輪金メダリストの北島康介氏(写真左)と提携を結んだ

(写真/小西範和、加藤 康)

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