ここ数年、インディーゲームの発掘・育成に関心を寄せるパブリッシャーが増えている。「東京ゲームショウ2021 ONLINE」の「TGSフォーラム」では、世界累計出荷本数100万本を達成したインディーゲーム『天穂のサクナヒメ』と、クリエイターの発掘・育成に注力している講談社、それぞれの担当者が語り合った。

大ヒットしたインディーズゲーム『天穂のサクナヒメ』のパブリッシャーと、講談社でクリエイターの発掘・育成を担当する編集者が語り合った
大ヒットしたインディーズゲーム『天穂のサクナヒメ』のパブリッシャーと、講談社でクリエイターの発掘・育成を担当する編集者が語り合った
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 近年は、インディーゲームながらグローバルでヒットを飛ばすタイトルも登場するようになり、注目しているパブリッシャーは多い。そこで「東京ゲームショウ2021 オンライン」(TGS2021 ONLINE)内のビジネスパーソン向けウェビナー「TGSフォーラム」では、「インディーゲーム ヒットさせるための発掘・育成・マーケの手立て」と題した主催者セミナーを開催。世界累計出荷本数100万本を達成した『天穂のサクナヒメ』のパブリッシャー、マーベラス USAでエグゼクティブバイスプレジデントを務める細居賢志氏と、インディーゲームクリエイターの発掘・育成に力を入れている講談社第四事業局 クリエイターズラボ ゲームクリエイターズラボ チーフの片山裕貴氏を招き、それぞれの体験に基づいたインディーゲームとの関わり方について話を聞いた。モデレーターは日経BP 日経クロストレンド編集委員の降旗淳平。

インディーゲームの魅力とクリエイターの発掘手法

 そもそもインディーゲームの魅力とは何なのか。まずは、マーベラス USAや講談社がインディーゲームに注目する理由、クリエイターを発掘する手法について細居氏と片山氏が語った。

『天穂のサクナヒメ』は日本ゲーム大賞2021の年間作品部門で優秀賞を受賞したゲーム。同作はマーベラス USAとえーでるわいすの出会いから始まった
『天穂のサクナヒメ』は日本ゲーム大賞2021の年間作品部門で優秀賞を受賞したゲーム。同作はマーベラス USAとえーでるわいすの出会いから始まった
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 細居氏は「大手企業の場合、企画書だけでは(ゲームの)面白さや可能性がなかなか伝わらず、開発に至らないゲームも多い。一方インディーゲームの場合は、企画を出す人と企画を通す人が同一人物というケースが多々あるため、ユニークな発想のゲームが世に出やすい」とインディーゲーム制作の面白さを語る。

 とはいえ才能あるクリエイターを発掘するのは難しい。細居氏は「クリエイターの目利きに方程式はない」と言い切った。その上で「心掛けているのは、インディーズのイベントに実際に足を運んで、展示されているゲームを片っ端からプレーすること。一通りプレーし終えたときに印象に残るゲームがあるので、それらをもう一度プレーしたり、プレーしている人の反応を見たり、クリエイターと話をしたりしている」とマーベラス USAのクリエイター発掘手法を語った。

 一方、講談社は「ゲームクリエイターズラボ」というプロジェクトで、インディーゲームクリエイターの“卵”に最大2000万円(税別)を支給し、“担当編集者”のサポートを受けながらゲーム制作に専念できる環境を提供している。このプロジェクトは漫画で言うと新人賞のような位置付け、つまり新人発掘の場だ。

 クリエイターの選出基準について聞かれた片山氏は「ゲームのユニークさと新規性を見ている」と話し、出版社のプロジェクトならではといえる要素として“作家性”を重視していることも付け加えた。

 漫画家が「この漫画を描きたい」という熱意を持っているように、クリエイターにも「このゲームを作りたい」という熱意があるかどうか。面接では「なぜ、そのゲーム作りたいと思ったのか」といったことを聞くそうだ。「クリエイターと話し合う中で、編集者が『いいな』と感じたもの、『一緒にやっていきたい』という思いを強く持ったものが選ばれる」と片山氏は言う。

講談社「クリエイターズラボ」はクリエイターに資金と担当編集者のサポートを提供する
講談社「クリエイターズラボ」はクリエイターに資金と担当編集者のサポートを提供する
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クリエイターがゲーム制作に専念できる環境を

 では、そうして発掘したクリエイターと、パブリッシャーはどんな関係性を築いているのか。講談社の場合は、漫画家と編集者の関係に近いという。クリエイターラボのクリエイターたちを担当の編集者がケア・サポートするスタイルだ。

 また細居氏は、『天穂のサクナヒメ』を制作した同人ゲームサークル「えーでるわいす」を例に挙げてクリエイターとの関係性を説明した。

マーベラス USAのエグゼクティブバイスプレジデント 細居賢志氏
マーベラス USAのエグゼクティブバイスプレジデント 細居賢志氏
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 「えーでるわいすも2人のスタジオ。ゲーム制作に集中してほしいので、機材の用意やマーケティングなど、ゲームをリリースするために必要な、彼らの専門外の部分を積極的にお手伝いしている。(ゲーム制作の)アドバイスなどはできないので、クリエイターに『お任せする』というスタンスを守っている」と細野氏。

 それを受けて片山氏は「クリエイターにはアドバイスが欲しいという人と、そうでない人がいるので、それぞれ対応を変えている」とコメント。「あるクリエイターは『ゲーム部分のアドバイスはいらないが、テクニカルの部分で困っている』と言っていたので、テクニカルな部分に詳しい会社と引き合わせた」(片山氏)。

講談社第四事業局 クリエイターズラボ ゲームクリエイターズラボ チーフの片山裕貴氏
講談社第四事業局 クリエイターズラボ ゲームクリエイターズラボ チーフの片山裕貴氏
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インディーゲームの独特なマーケ手法

 インディーゲームをヒットさせるにはマーケティングも重要だ。細居氏は、「リリースがアナウンスされ、ユーザーやメディアの目が集中しているときに、情報を小出しにして興味を引き伸ばすのがマーケティングの主流」と話す。

 例えば『天穂のサクナヒメ』の場合、米ロサンゼルスで毎年開催されるコンピューターゲームの展示会「E3」に、ボスキャラを変えた体験版を3年連続で出展したそうだ。

 「通常のマーケティングではやらないが、開発が長引いていたので、パブリッシャーとしてはE3で何かしらのニュースを出したいと相談した。ボスキャラの情報を出してしまうのはもったいないと思いつつも、そのおかげでニュースになった。ニュースにならないと開発中止になったと思われるかもしれないので、常に開発が進んでいることを伝えるのも重要だと思った」と振り返る。

 講談社はYoutubeの活用に積極的だ。過去にはクリエイター自らが制作過程を実況中継して注目されたこともある。また2021年10月5日には講談社のYouTubeチャンネルとして「あなプレ!~あなたのゲームをプレイするチャンネル」を開始した。このチャンネルは、同社のミスコンテスト「ミスマガジン」からゲームアイドル部門に選ばれたアイドルたちが、いろいろなインディーゲームをプレーするというものだ。

 片山氏は「いろいろなインディーゲームを楽しむ場にして、その中に自分たちが関わっているクリエイターの作品も入れ込んでいく。Youtubeでプレーしているアイドルの反応を見てもらい、そのゲームのどういうところが面白いのかを伝える狙いもある」と語る。

 細居氏は「制作過程を見せるのもインディーズならではの文化で、『天穂のサクナヒメ』ではクリエイターのなるさんがTwitterでかなりオープンに話していた。『あまり情報を出さないでください』というのがパブリッシャーのスタンスだが、そういったこともまたインディーゲーム文化の中では重要だ」と語った。

 ユニークなインディーゲーム、クリエイターを発掘し、ヒットに導く秘訣は、インディーゲームならではの文化を尊重しながら、パブリッシャーだからこそ生かせる機能やリソースをフル活用することにありそうだ。

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