2021年9月30日、「東京ゲームショウ2021 オンライン」(TGS2021 ONLINE)の基調講演「それでも、僕らにはゲームがある。」が配信された。カプコン、バンダイナムコ、KONAMI……ゲーム業界の第一線で活躍するのゲームクリエイターから見た、いま業界に起こっている変革とは?
今回の基調講演は、KADOKAWA Game Linkage ファミ通グループ代表の林克彦氏がモデレーターを務め、3つのテーマについてそれぞれ3人のゲームクリエーターと対談する形式となった。各テーマと対談相手は以下の通り。
■テーマと出演者
「デジタル革命に伴う『体験装置』としてのゲームの進化」
佐藤盛正氏(カプコン CS第1開発統括 第1開発部ディレクター)
「デジタル革命で拡張する、ゲームコミュニケーションの未来」
原田勝弘氏(バンダイナムコエンターテインメント チーフプロデューサー/ゲームディレクター)
「デジタル革命で変化する、ゲームエクスペリエンスの未来」
木村征太郎氏(コナミデジタルエンタテインメント 「eFootball」シリーズ プロデューサー)
ゲーム表現が現実に追いついた先にあるもの
最初のテーマは「デジタル革命に伴う『体験装置』としてのゲームの進化」。2021年5月発売の最新作『バイオハザード ヴィレッジ』でディレクターを務めた佐藤氏が登場した。
『バイオハザード』の第1作が登場したのは1996年の3月だ。それから25年の間にゲーム表現は大きく進化した。佐藤氏は「レイ・トレーシング(光線などを追跡することで、ある点において観測される像などをシミュレートする手法)や3Dオーディオを採用したことが大きい」と語る。
「バイオハザードでは、どれだけリアルで生々しい、インパクトのある体験を提供できるかにフォーカスを当ててきた。痛いとか、怖いとか、気持ち悪いとか、そういった感覚を自分自身が味わっているかのように遊んでもらえればと思っている」(佐藤氏)
また開発者から見たゲーム表現の満足度について、佐藤氏は「個人の感覚では、(ビジュアルとサウンドについては)現実とほぼ区別がつかないレベルがうっすら見えてきた」と言う一方で、ゲーム表現にはまだ伸びしろがあると指摘する。
佐藤氏は「半分妄想」と前置きしつつ、「ゲームが追求しているリアリティーは、現実世界に生きている私たちにとって“想像がつくもの”でもある。僕は想像できるものの先にある“まったく想像できない体験”を期待している。それを実現するために、ゲームプレーを通じて人間の五感を拡張できないかと考えている」と話した。ゲームの進化には私たちの常識を覆す力があると言うのだ。
「そういう体験を(ゲーム開発者が)目指しているかどうかが大事。ゲームの未来というビジョンをどこに置くか、現実を再現できればそれでゴールというものではない」と佐藤氏。「現実そのものの『バイオハザード』が作れたとして、その先の怖さ、面白さはないのか。それを考えると、現実の先にあるゲームプレーが必然的に視野に入ってくると思う」(佐藤氏)
ファンの信頼を勝ち取ればメディアより効果大
続いてのテーマは「デジタル革命で拡張する、ゲームコミュニケーションの未来」。登場したのは「鉄拳」シリーズなどを手掛けた実績のある原田勝弘氏だ。
ゲーム開発においては以前からユーザーの意見を収集したり、反応を見たりということが行われてきた。原田氏は「以前ははがきやファクスでしかゲーム会社に対して意見や要望を伝えられなかったが、いまではSNSなどを通じて開発側とユーザーが直接話せるようになってきた。そうした意見を拾い上げることは開発にとって重要だ」と話す。
「多くのユーザーに指摘されたところは、修正しなければいけないところだったり、もっと面白くできるところだったりする。時にはユーザーのアイデアがゲーム自体を変えてしまうこともある。そういう時代になってきた」(原田氏)
ゲームがインターネットに接続されたことで、ユーザーのプレーログがゲーム会社に送られるようになり、ユーザーが行き詰まったところなどを把握できるようになった。しかし、ユーザーの反応までは分からない。そこで原田氏は、いわゆる「実況動画」やSNSのコメントを拾い上げる工夫をしている。
「『ここ、実際はどう思っているの?』『どうしてそんな反応をしているの?』といったことは、実際に双方向でやり取りしている。ネットを経由して送られてくる定量的なデータと、実況動画などから分かる定性的なデータを組み合わせないと開発の参考にならない」(原田氏)
原田氏自身も数年前からTwitterで情報を発信したり、海外でファンイベントを催したり、Youtubeチャンネルを開設したりしている。原田氏は「欧米のゲーム会社のなかには、コアなファンに対してタイトルの売り上げデータを開示しているところもある。それはファンとの信頼関係を築き、ブランドとして信用してもらうため」と話す。
「このゲーム会社、この開発チーム(のタイトル)だから買う、この人がディレクターだから信頼できる、というブランディングができている。その影響はメディアを使って流行を作るより大きい。ゲームの売り上げはユーザーには関係ないと思うかもしれないが、タイトルの売り上げデータを開示する事例は増えてきている」(原田氏)
ゲーム会社に蓄積されるプレーログは膨大になり、それを解析する技術も急速に進歩している。しかしその一方で、ユーザーの反応や心理はデータにならない。その部分をどうやって把握するかはゲーム会社が抱える課題の1つだ。原田氏は「プロデューサーやディレクターたちがSNSを駆使してユーザーから意見を拾うことは必要。(SNSよりも)もっといい方法があるかもしれない」と締めくくった。
「ウイイレ」がリブランディング、その理由とは
最後のテーマは「デジタル革命で変化する、ゲームエクスペリエンスの未来」。「ウイニングイレブン」からシリーズタイトルを変更して話題になった『eFootball』のプロデューサー・木村征太郎氏が登場した。
1995年の第1作発売以来、25年以上も定着していた「ウイイレ」をリブランディングしたのはなぜか。その背景について木村氏は「1つはPlaystation 5、Xbox Series Xなど、家庭用ゲーム機の世代の切り替えのタイミングで新しいサッカーエンジンを作ろうというプロジェクトがあったこと。もう1つはeスポーツ。各プラットフォームごとに開催していた大会を“クロスプラットフォーム”にして大きくしていきたい思っていたこと。加えて、(市場が)基本プレー無料型のビジネスモデルにシフトしつつあること。そういった大きな変化が重なったため、『ウイニングイレブン』の続編にとどまらず、完全に生まれ変わったものとして見てほしいという思いがあった」と説明する。
木村氏によれば、リブランディングを「寂しい」というファンの声はあったものの、社内からの反対はなかったとのこと。ちなみに「ウイイレ」の海外版は「Pro Evolution Soccer」だが、こちらも『eFootball』で統一された。
また従来のパッケージ販売からF2P(Free to Play、基本無料でプレーできるオンライン対応ゲーム)に変更した点については、「グローバルで統一したeスポーツのプラットフォームを作る上では参加者を増やしたい。その障壁は価格だったので、基本プレー無料型にした。パッケージ販売からの転換は大きな決断だったが、モバイルアプリでは基本プレー無料+アイテム課金で一定の成功を収めているので、成功を確信してのこと」と木村氏。
パッケージ販売だった「ウイイレ」は、毎年のように新作が登場していたが、『eFootball』ではアップデートを配信する形になる。「ユーザーの声を聞きながら、少なくと数カ月に1回は何らかのアップデートを提供して、継続してプレーしてもらえるようなものを作りたいと思っている」(木村氏)
木村氏としては、この『eFootball』をサッカーゲームのプラットフォームに限定せず、コミュニケーションや情報交換の場として広げていきたい考えだ。
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