オンライン開催2年目となる「東京ゲームショウ2021 オンライン」。コロナ禍の影響で20年に続きオンラインでの開催となったが、21年は新たな取り組みとして史上初のVR会場を用意した。「VR」とうたってはいるが、 VRヘッドセットがなくても参加可能だ。
東京ゲームショウ2021 オンライン(TGS2021 ONLINE)は、東京ゲームショウ開始25周年を記念して初のVR(仮想現実)会場をオープンした。
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)によると「リアルイベントが提供してきた『ワクワク感やセレンディピティ』」と「オンラインになることで付加された『効率性やリモート参加』といった価値」を生かし、新しいTGSの楽しみ方を提示するものだという。来場者はパソコンやVRヘッドセットからVR会場にアクセスし、バーチャル空間でさまざまなコンテンツを楽しめる。
用意されたVR会場は2つ。企業スペースや公式ショップなど、20以上の出展スペースからなる「GAME FLOAT」と、ゲームキャラクターなどのアバターコスチュームを購入できる「GAME FLOAT SKY」だ。
ゲームメーカー各社の出展スペースがあるGAME FLOATがメイン会場にあたる。なお、GAME FLOAT会場にはambr(東京・中野)が開発したVR空間プラットフォーム「xambr(クロスアンバー)」が、GAME FLOAT SKY会場にはNTTが開発したVR空間プラットフォーム「DOOR」がそれぞれ用いられている。
会場をめぐってまず感じたのは、VR空間を訪れるハードルの低さだ。GAME FLOATでは専用アプリのダウンロードが必要だが、ユーザー登録などの手間はなく、スタート画面にユーザー名を入力するだけ。デスクトップ用のアプリケーションが用意されているので、VR機器がなくてもパソコンの画面から手軽に参加できる。GAME FLOAT SKYにはスマートフォンからもアクセスが可能だ。
今回はメイン会場であるGAME FLOATを中心に、TGS初のVR会場がいかにユーザーフレンドリーかつイベントとしての「体験」を重視したつくりであったかをリポートしたい。
初心者に優しいチュートリアル
GAME FLOATの専用アプリを立ち上げると、最初に到着するのは案内板が並んだ真っ白な空間。ここではアバターの操作方法や、各種機能の使い方を確認できる。ゲームでいえばチュートリアルにあたるパートだ。
パソコンゲームに慣れ親しんでいないユーザーでも、このパートで移動や動画の視聴といった、コンテンツを楽しむために必要な基本操作をしっかり理解してから会場に向かえる。VRやパソコンゲーム初心者にも親切な設計だ。
出展エリアは3つに分かれており、それぞれが中央のメインホールを囲むような形でぐるりとつながっている。ドーナツ状の構造なので行き止まりがなく、「今いるエリアから出られない」「次にどこに向かったらいいのか分からない」という事態に陥ることはない。
展示されているコンテンツが見やすいのも特徴だ。画像や映像をつかんで画面手前に引き寄せる「Grab&Play」機能があるため、展示物を見るためにアバターを操作して近づいたり、見やすい角度に視点を調整したりする必要がない。この機能のおかげで、どんな角度・位置からでも、視界にあるコンテンツであればつかんで引き寄せ、正面から視聴できる。
会場を何周もしたくなる仕掛けと演出
企業スペースで動画を視聴していると、突然「つながりのかけらを見つけた!」とメッセージが表示された。
実は、GAME FLOATを訪れたユーザーにはある任務が与えられている。それは、ゲームの記憶を宿した「つながりのかけら」と呼ばれるアイテムを集めること。そして参加者全員がより多くのアイテムを集めることで、メインホールに設置された「つながりの結晶」が進化するという。つまり、会場を回遊する行為そのものがゲームになっているのである。
アイテムの入手方法は、動画視聴に限らない。エリアを歩いていると、RPG(ロールプレーイングゲーム)に出てきそうな壺(つぼ)や樽(たる)、木製の宝箱などが点在していることに気づく。試しに調べてみると、なんと壺からもアイテムが入手できた。エリア内のあらゆるオブジェクトが、アイテムゲットにつながる可能性を秘めているわけだ。
エリアのあちこちに立っているロボットも、RPGを彷彿(ほうふつ)とさせる。「宝箱って、わたし宝箱ですっていう見た目してるよね」とアイテム入手のヒントになりそうなせりふを言う者もいれば、「VR酔いは大丈夫かい?」とユーザーを心配する者もいる。ロボットたちは、訪れたエリアの説明やゲーム進行上のヒントを提示してくれる、RPGでいう村人のような役割を担っているのだった。
行き止まりのない地続きの構造と、アイテム収集というゲーム性により、気づけば会場を2周していた。始めはVR空間を彩る演出上のものだと思っていた建物やつり橋も、「何かあるのではないか」「どこかから登れるのではないか」と確認せずにはいられない(実際、ほとんど登ることができた)。
その道中で、さまざまなゲームタイトルやコンテンツとの出合いがある。まさに「リアルイベントが提供してきた『ワクワク感やセレンディピティ』」を体感できる仕掛けだと感じた。
バーチャル空間を生かした出展内容
各企業の出展内容も、バーチャル空間ならではの趣向を凝らしたものになっている。
「hexaRide 進撃の巨人360° エクスペリエンス」のブースでは、獣の巨人との戦いをVR空間で再現。立体起動装置を使用した迫力の空中戦を、好きな角度から堪能できる。先に述べたように、GAME FLOATでは目に見える建物や構造物にはだいたい登ることができる。巨人の形相を見上げながら、「もしかしたら建物の上からリヴァイと獣の巨人の戦いを拝めるのではないか」とひらめいた。すると予想通り、建物の1階部分に階段を発見。こうした仕掛けを自力で見つけられると喜びもひとしおだ。
「からかい上手の高木さんVRプロジェクト」のブースでは、教室を再現した空間に、作中のヒロインである高木さんが3Dキャラクターとして登場。夏の放課後を思わせる温かな日差しと、机の上に学校かばんを置き、こちらを見つめる高木さんの姿が美しい。ブースではPR動画が視聴できるほか、カメラ機能を使って高木さんと一緒に記念撮影することもできる。作品の世界観に没入できるのはVR空間ならではの魅力だ。
ゲームメーカー以外の出展もある。環境省は、温暖化ガスの排出量削減のために「賢い選択」をしようと訴える取り組み「COOL CHOICE」にちなんだ「COOL CHOICE HOUSE」を出展。『マインクラフト』を想起させる3Dブロックで構成された家の中に、地球温暖化対策を学べる動画やクイズを展示している。展示の内容はゲームではないが、ブースのデザインもあってむしろ会場には溶け込んでいた。
TGS初のVR会場には、リアルイベントのような賑わいこそないものの、バーチャル空間ならではの大規模な演出と、誰もが参加できる手軽さがあった。さらに、会場そのものにゲーム性を持たせたことで、何度も楽しめる内容になっている。「ゲームの面白さ」を体感できる場として十分に成功していると言えるだろう。
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