広大な商業施設跡地に中心市街地づくりを進めている佐賀県・上峰町。開発を進めるための「LABV(Local Asset Backed Vehicle、官民協働開発事業体)」という方式は、住民の意見を中心市街地づくりに反映し、新たな資金負担をかけずに開発を進めるために導入された。PPP(官民連携)のやり方は様々だが、LABVを使う利点は何なのか? 東洋大学PPP研究センター長の根本祐二教授に聞いた。
――佐賀県・上峰町がLABVという方式で中心市街地づくりを進めています。公共施設などの建設で「PPP」というやり方をよく聞きますが、これとの違いは何なのですか?
根本祐二教授(以下、根本) PPPというのは官民連携の包括的な概念です。やり方としては、PFI(Private Finance Initiative)もあるし、指定管理者制度もあるし、包括的民間委託みたいなのもある。公的不動産(PRE:Public Real Estate)もあります。LABVはその中の1つなんですね。多様な官と民の連携の形態の中の一種です。
PPPでは、民間との完全なイコールパートナーシップというのはなかなか存在しなくて、官が主体のパターンと民間が主体のパターンに大別されます。官が主体のものはPFIとか指定管理者制度のように、官のサービス、公共サービスの全部、または一部を民間が代替するもので、公共サービスの中身を定義するのは官の仕事です。公共性を官が定義して、その中で最も効率的な提案をする民間がその事業を実施します。基本的には官が決定権を持っているというのが1つの考えです。
一方、民間が主に決めるのがPREです。官が持っている土地の上に民間のビジネスを展開するやり方です。例えば学校の廃校舎をホテルに改装するとか、あるいは自治体から土地を購入してショッピングセンターを建てるとかいうのはこちらのパターンになるわけです。これもPPPなんですよ。
――上峰町は住民の意見を町づくりに取り入れるために、LABVを選んだと聞きました。
根本 町づくりを、官と民で一緒にやろうとしたときにはPFIや公的不動産などでは物足りないことがあります。民間がつくり上げるのが望ましい町ではあるけれども、その中には公園もあるし、学校もあるし、もちろん道路とかもある。公共が行うべきことが多々あるわけですよね。
じゃあ、公共が全部やればいいかというと、役人が考えるだけではやはりいい町には多分ならないですよね。経済が動く、雇用機会ができる、ということを考えると、やはり民間の知恵が相当出てこないといけない。
とすると、官と民がもう少し役割を分担して、自分が持っている得意なところをもう少しやろうじゃないかという考え方が出てきたんですね。ただ、そういうことを促すような方法というのが今までありませんでした。LABVというのは官民がイコールパートナーとして町づくりを進められる可能性がある方法だといわれています。
――官と民でどういう分担になるのですか?
根本 LABVでは、まず土地を官が持っているわけです。手放すのではなくて、現物出資をします。現物出資というのはお金で出資するわけではないので、自治体側も金銭的な負担が新たに生じるわけではありません。売るわけでもないので、民間側に新たな負担が生じるわけでもないんです。一番経済的な効果として高いのは、土地代を顕在化させない効果ですね。
官が土地を売ってしまうと、購入した民が主体の町づくりになりますよね。それも別に悪くはないのですが、官として引き続き関与していきたいと思ったときには都合が悪いですね。民間側も土地を買うというのは、お金が掛かるわけですので、事業のリスクが高まります。ですので、土地代の負担をできるだけしないで、町づくりをしていきたいと民は考えるし、官も引き続き町づくりに関与していきたい。その思惑が合致したものがLABVなのです。不動産の上で何か事業をやるための物理的な価値として使う。地価の高いところでも可能です。土地が高くても、それを負担することなく使えるわけですから。
――官が土地を出資すると、民の意見が反映されにくくなるのではないですか?
根本 現物出資してしまうと出資者になりますから、株式会社であれば株主として議決権を持ついわゆる第三セクターになってしまいます。そうすると、その自治体が大株主として経営に介入するということになります。それは民間側からすると、避けたいことなんですね。
できるだけ民間人が工夫をして町づくりを進めるためには自由な経営ができないといけません。なので、現物出資をするのはいいんだけれども、その権限をあまりに行使され過ぎると経営がうまくいかなくて、何のために現物出資してもらったのか意味もなくなってしまうわけです。
それで、一般論として言うと、現物出資をしたのと同じ金額を民間側からも出資してもらうのがLABVの考え方です。両者の持ち株比率を同じにするということです。
――上峰町は21年4月、LABVで中心市街地づくりを進めるための合同会社つばきまちづくりプロジェクトを設立しました。
根本 自治体が例えば50%を出資している第三セクターは日本の法律でいうと、ほぼ官なんですね。議会にも報告しないといけないし、承認をいろいろ取らなくてはならず運営が硬直的になってしまいます。それで、合同会社という形態を取っています。
合同会社というのは持ち株比率によって、議決権を持つということではなくて、その構成員がイコールパートナーとして経営に参加できる。お金を出した比率にかかわらずです。
町づくりで複数の事業を進めると、それぞれの事業を別々の会社に任せる必要も出てきます。そのときにそれを束ねるという存在が重要なんですね。いちいち議会とかにかけていられないから、民間の方でどんどんやってくださいと。LABVでは、それを支えるために現物出資はするけれど、運営の責任は民間が負います。その責任主体が合同会社に当たるわけです。
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