独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周氏とインクルーシブデザイン・ソリューションズ(IDS、東京・江東)社長の井坂智博氏との対談後編。二人は地方の多様化が日本の社会課題の解決に欠かせないと指摘します。リモートワークの浸透により都市を離れる人が増え、地方の価値を見直す機運が高まっている今こそが、日本を持続的な社会に変革する最大のチャンスと両者は語ります。

日本復活のカギは地方の多様化にあると山口周氏(右)は語る
日本復活のカギは地方の多様化にあると山口周氏(右)は語る

「都市離れ」が引き起こす問題とは

井坂智博氏(以下、井坂) 私は以前、師匠にあたる東北大学名誉教授の石田秀輝先生に「これからの社会には(気候変動などの)環境制約が重くのし掛かってくる」と言われました。そのときから環境制約を考えるようになり環境問題を勉強し始めました。

山口周氏(以下、山口) 私は昨今の「都市離れ」に起因して新しい環境問題が出てくると思います。実は都市は環境問題にとって悩ましい部分があって、理論上は都市が大きければ大きいほど環境にプラスに働きます。例えば100万人規模の都市が10カ所に点在しているよりも、1000万人の都市1つのほうが、電気などのエネルギーの利用効率や自然環境を守るうえでは有利です。

 しかし、この考えでは地域の多様性が失われるなど、さまざまな問題を生みます。そもそも人にはライフスタイルを自由に選択する権利があるべきです。人は自然と触れ合うことで、元気をもらうなど豊かな人生を送れるというのは事実としてありますよね。しかも便利な電化製品などが日常生活の煩わしさを最低限解消したので、cityではなくvillageでも余暇の時間を十分に作ることができる。この結果、近い将来エネルギー問題と自然と触れ合う豊かな生活のトレードオフが発生する。これも新たな環境問題だと思います。

 加えて都市離れは人間性の制約とか文化的生活の制約を生み出します。都市での生活を望む理由として、「芸能や芸術は都市でないと楽しめない」ことを挙げる人は多いです。本来は人々が等しく芸能や芸術など文化的なものにアクセスする権利を持っている。地方在住の人を除外せずに、どうすれば最先端の芸能や芸術の価値を人々が体感できるかを考えないといけない。でも実際は「都市でないと映画もコンサートもやってないんだからしょうがないでしょ。それはわがままだよ」となってしまう。

 でも、わがままで済ませないでどうやったらできるのかを考えてみることが必要だと思います。イーロン・マスク氏(テスラCEO)もラリー・ペイジ氏(Google共同創業者)も、「世の中はそういうものだからしょうがない」ということに「それはおかしい」と真っ向からぶつかっていったわけです。そういう人たちが、巨大な事業をつくることに成功した。そういう意味ではビジネスをするうえで「しょうがない」に異を唱えることは大事ではないでしょうか。

「『しょうがない』の解決が大きな事業を生む」と話す山口氏
「『しょうがない』の解決が大きな事業を生む」と話す山口氏

井坂 先ほどのエネルギー問題と自然と触れ合う豊かな生活のトレードオフは、地方が都市の物質的な豊かさに憧れて同等のものを得たいと考えると解決できないかもしれません。せっかく豊かな自然があるのに、そこにアイデンティティーを求めずにむやみに観光などの産業振興に力を入れた結果、うまくいかずその地方全体がさびれてしまったという話はよく聞きます。

 逆に自然の中で豊かに暮らしている地方もあります。私が携わったことのある地方創生活動の中では、鹿児島県の沖永良部(おきのえらぶ)島がそうでした。利便性を求めてきた人は「台風が来ると物流が止まり、スーパーからものがなくなるなんて大変ですね」「観光業などの産業振興が遅れているのでは」といった指摘をします。しかし、住民は昔ながらの生活、不便を楽しむライフスタイルを続けていてみんな笑って生活していました。自然に生かされている、自然と共生しているという概念や文化が脈々と流れている貴重な地域です。

山口 かつての日本は科学技術を礼賛していましたので、どんなに地方であっても道路がすべてアスファルトになり、それだけではなくビルの間を空飛ぶ車が行き交うような環境を夢見てしまった。当然、そうしたビジョンを掲げて開発を続けてきたのですが、その結果、現在のようなある意味無残で不毛な結果しか残せなかった。

日本には素晴らしい文化が眠っている

山口 地域の多様性を維持するためにも、九州だったらみんなが福岡になるのではなくて、自分が住んでいる地域のアイデンティティーって何だろうとか、住民が大切にしているものは何だろうとかをしっかり考えることが大事です。地域に多様性があれば、多様な人たちが住める社会になります。これがどこに行っても平均レベルの人しかいないと、平均から外れた人は住む場所がなくなってしまいます。米国は東海岸と西海岸、西海岸でもサンフランシスコとポートランドでは個性が違いますが、日本はだいぶ平均化が進んでいるように思います。でも私が住んでいる神奈川県の葉山は、個性的な人がたくさんいて、住み心地は最高ですけれどね。

 司馬遼太郎さんは、明治維新から日本がギリギリのところで国を守れたのは地方に多様性があったからだと言っています。例えば土佐藩では坂本龍馬や岩崎弥太郎など起業家精神にあふれる人が活躍していて、薩摩藩には器の大きなリーダーである西郷隆盛がいました。長州藩には非常に議論が上手な人が多く、鍋島藩(佐賀藩)、江戸時代末期のシリコンバレーみたいな地域には当時最先端の技術を理解している人が多くいました。そういった各地域で活躍していた人が集まり、それぞれの特徴を生かしながら新政府がつくられたわけです。

 しかし、現在の日本にそういった多様性はあまり感じられません。そういう意味で、ここ最近の都市離れはある種、明治時代への回帰が始まった感覚があります。日本はこのチャンスを逃すべきではないでしょう。あらゆる地域から日本全体を活性化していく多様な動きが生まれることに期待しています。

井坂 そうですね。先ほどおっしゃった回帰についてですが、私は以前、戦前に20歳を迎えた人たちがどんな生活をしていたのかを調査したことがあります。東北大学と一緒に行った「90歳ヒアリング」と題した調査ですが、戦前に20歳を迎えた人はものがない時代を過ごす中で、どんなふうに笑って暮らしていたのか、その生活ぶりを観察することで将来制約が増えたときの心の豊かさを維持するヒントが得られるのではと考えました。

※「90歳ヒアリング」は、NPOサステナブルソリューションズ、東北大学大学院環境科学研究科とIDSなどがタッグを組んで、戦前に20歳を迎えた人に当時の暮らしについてヒアリングし、ライフスタイルのヒントを得るプロジェクト。経済発展の過程で失われたものや失われつつあるものを探し出して現代版に焼き直し、新しいライフスタイルを創るのが狙い。2013年度グッドデザイン賞を受賞。

 その調査で地域ごとに失ってはいけない価値と、新しく取り入れなくてはならない価値が融合しつつあると気づきました。例えば、兵庫県豊岡市では、学校給食用の食材を保存するために、冬に降った雪を活用した天然の冷蔵庫である雪室(ゆきむろ)を復活させました。実は豊岡市、農業は盛んなのですが、給食に使う食材の域内循環ができていない“自給率”が低い状態でした。これを高めるには野菜を通年で提供するための大型冷蔵庫とそれを動かす電気が必要です。しかしコストなどを考えると市外から野菜を買ったほうが安かったのです。

 そこで目を付けたのが、昔は普通に使われていた雪室。雪室は電気がない時代に保冷という価値を提供していましたが、すでに使われなくなった古い価値です。そこにCO2が発生しないという側面が新たな価値を生み出したわけです。まさにライフスタイルの回帰といえる事例で、学校給食の域内循環率を向上させ、豊岡市の持続的なまちづくりに貢献しました。

「地方には失ってはいけない価値がある」と指摘する井坂氏
「地方には失ってはいけない価値がある」と指摘する井坂氏

山口 最近は地域の価値を外国人の方に指摘されることが増えていますよね。例えば、ドイツ人の建築デザイナー、カール・ベンクス氏が、消滅の危機にあった新潟県十日町市の山奥にある竹所(たけところ)集落を救った事例があります。この方は、建築家として世界をわたり歩いてきたのですが、そんな中で竹所を訪れたときに「ここはパラダイスだ」と言って、移住を決断したのです。

 彼が気に入ったのは、竹所の自然もさることながら、実は放置されていた古民家。古民家はとても安く買うことができたので、私財を投じ、老朽化した古民家を再生しました。再生された古民家はドイツ人の建築家が仕上げたものですから、どこか欧州の雰囲気を感じさせるものでした。これが端的にすてきな家でして、この結果、何が起こったかというと、次々に「住みたい」という人が現れたのです。そしてついに竹所の人口が増加に転じるなど、村おこしにひと役買ったのです。

 カール・ベンクス氏が訴えたのは「世界的に見ても宝物のような文化的な資財が日本には眠っている」ということ。やはり慣れ親しんだ環境の中で生きていると、そこに潜んでいる価値になかなか気づけないものです。これは前編でお話しした近い人と集まっていると外側にある問題を発見できない感覚に近いのではないでしょうか。

再生された古民家は、どこか欧州ふうのたたずまい(出所/十日町市お試し移住シェアハウスのInstagramより)
再生された古民家は、どこか欧州ふうのたたずまい(出所/十日町市お試し移住シェアハウスのInstagramより)

100人のうち1人が強く共感してくれるほうが正解

井坂 1つでも多くの企業に環境問題を見据えて循環型のビジネスに興味を持ってもらうことを目標に活動してきましたが、やはりこの11年間で感じたことは、ほとんどの企業は「足元の売上利益を上げる」「現在の延長線上で未来を捉える」ところに留まっていることです。今の延長線上ではない持続的なライフスタイルを構想できる人材が育たないのです。このままだと、AI(人工知能)にすべての仕事が置き換わってしまうとさえ危惧しています。

山口 私は井坂さんの考えに、世の中のすべての企業が共感しなくてもいいと思うんです。私も著書『ニュータイプの時代』などを通じて自分の考えを述べていますけれど、例えば100万部本が売れたとしても、日本の人口の1%にしか届きません。ビジネス書では10万部を突破すれば大ベストセラーですが、その大ベストセラーでも0.1%にしか渡っていないことになります。

 でも切っ先鋭い主張を持ち続けるのはとても大切なことです。99.9%の人が理解できるように主張をオブラートに包んでしまうと、共感してくれるはずだった0.1%には刺さりません。毎回同じことを言い続けながら100人に1人がものすごく共感してくれるほうが、陳腐な正しさを訴えるよりも正解じゃないでしょうか。

井坂 ありがとうございます。IDSでは障がいをお持ちでも企業・自治体の製品・サービスの企画開発に積極的に参加し、ワークショップのファシリテーションを担当する方を「リードユーザ」と呼んで戦力化しています。視覚障がいのあるリードユーザの中に自動販売機で飲料を買うことを“ロシアンルーレット”と表現している方がいます。この方の発想こそが、不便を受け入れながらどう生活を楽しむかという考え方そのものを表しています。「不便を楽しむ」という考え方が将来の社会課題を解決するヒントになり、持続的な社会を実現すると思うのです。本日はありがとうございました。

山口 本日は私もとても勉強になりました。ありがとうございました。

山口周(やまぐち・しゅう)氏
独立研究者・著作家・パブリックスピーカー
1970年東京生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、組織開発と人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループにて、シニア・クライアント・パートナーを務めたのち独立。哲学・美術史を学んだという特殊な経歴を生かし「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに活動を行っている。主な著書は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)のほか、ビジネス書大賞2018準大賞となった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)や『思考のコンパス』(PHP研究所)などがある。

(構成/中山洋平、写真/稲垣純也)

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日経ビジネス課長塾オンデマンドより
本連載の著者である井坂智博氏は、課長塾および課長塾オンデマンドの講師として活躍中です。課長塾オンデマンドでは、次世代リーダーが身に着けるべきスキルとしてデザインシンキング(思考)を解説しています。
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