
革新的マーケターを選出する「マーケター・オブ・ザ・イヤー2021」の2人目は、品切れ状態が続く「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」をけん引した専務兼マーケティング本部長、松山一雄氏。お客の心を動かすためには「驚き、感動、わくわく感」が必要という同氏の考えを具現化した製品といえる。
資料には「フルオープン缶」としか書いていない。「蓋が全部開く? それの何が面白いんだ」。松山氏がアサヒビールに入社してから1年後の2019年9月。会議の場で、一風変わった缶が机に置かれた。パカーンと開けると泡がむくむくと出てくる。驚いた。研究所で2年をかけ、試行錯誤をしながら開発してきた生ジョッキ缶のプロトタイプだった。
【第2回】 “テレワークスーツ”の新市場を創造 スピード感で業界に先駆け
【第3回】 「生ジョッキ缶」誕生の真相 再び覚醒したアサヒ挑戦者のDNA ←今回はココ
【第4回】 SDGs、体験価値、性差…常識そり落とした「紙カミソリ」
研究所が技術主導で何かをつくったら、マーケティング本部と共有して斬新な商品として生み出す。そのために、ほぼ毎月のスパンで開催していたイノベーション推進会議の場だった。「これは面白い」。マーケターの勘で、ものになると直感した松山氏は、試飲した人の反応をもっと見てみたいと思った。翌日には塩澤賢一社長と会い、数カ月に1回開催する社内懇親会「ビールデー」の場で出してみたいと打診した。
19年10月のビールデー当日。本社3階の会議室に集まった社員が、プロトタイプの蓋を開ける。「なんだこれは」という反応はあった。そうはいっても「会議室では、コストは? 調達は? 品質は? と論理的に話をしてしまう」(松山氏)。そこで19年末の仕事納めイベント、年末乾杯の場でも並べた。東京・墨田の本社横、金色オブジェの下にあるビアホールに250人もの従業員が集まった。案の定「おおっ、泡が出る」と、会議室では見られなかった大きなリアクションが広がっていった。
消費者はプレゼンを受けてから飲むわけではない。ブランドと消費者が出合った瞬間に勝負がつく。「面白い、おいしい、すごい、やばいというリアクションが出れば、ポテンシャルがあるということ。あとはそれをどうストーリーに乗せていくか」(松山氏)。年末乾杯の反応を受けて、20年2月に経営会議で松山氏は製品化を提案した。
「挑戦」をスーパードライの印象に重ねる
ストーリーをつくるために切り離せないのはブランドである。生ジョッキ缶はなぜ「スーパードライ」なのか。新ブランドを立ち上げる考えはなかったのか。「最先端のイノベーションはスーパードライでやるべきだという思いがあった」と松山氏は話す。1987年、バブル景気が膨れ上がる中で「日本初の辛口生ビール」として、スーパードライは登場した。「挑戦し、右肩上がりに何かを達成するというスーパードライの世界観がある」(松山氏)
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