
「土着化」を進める良品計画にとって、重要な役職が「コミュニティマネージャー」だ。地域に溶け込んでコミュニティーをつくり、地域のさまざまな課題を地元の人たちと一緒になって考えて解決していくことが役目といえる。コミュニティマネージャーを育成するため、良品計画は2018年から「暮らしの編集学校」と呼ぶ新しい研修プログラムを実施している。
地域に溶け込み、さまざまな課題を地域の人々と共に考えていく。地元の状況を探索するという意味では、マーケティング活動の一環といえるかもしれない。だが、人口や男女比、年齢構成や職業といったマーケティングデータだけで地域を捉えず、地元の人たちとの交流を重視する姿勢は、ほかの小売店には見られないだろう。地域が活性化しなければ、無印良品の店舗戦略にも未来はない。既存の“売れる地域”に出店するのではなく、地域を活性化することで“売れる地域”をつくり出していくわけだ。
コミュニティマネージャーを育成するにはどうすべきか。人と人の交流がポイントになるだけに、教科書で学ぶだけでは分かりにくい。このとき役立つのが、良品計画が2018年から開催している「暮らしの編集学校」と呼ぶ新しい研修プログラムだろう。コミュニティマネージャーの育成だけを狙った研修ではないが、地域の課題を発掘し、解決できる人材の育成に活用している。具体的に何をしているかを、21年9月16日にオープンした「無印良品 東武動物公園駅前」の例で見てみよう。東武ストア(東京・板橋)が運営するスーパーマーケット「東武ストア 東武動物公園駅前店」と協業して出店したケースで、地元の埼玉県宮代町や隣接する杉戸町といった地域の活性化につながる店舗を目指した。
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合宿も行い、地域の理解に努める
暮らしの編集学校は「最良の生活者を探求する」という無印良品の感性を持って地域の暮らしと社会を結び付け、同社が表現する“暮らしの編集者”を育成することが狙い。座学による研修プログラムではなく、実際の出店時に開催する場合がほとんど。出店を前提に地域の人と交流するため、実践的で生きたコミュニティーづくりを学べる。該当する店舗スタッフ以外に、多くの社員が自主的に参加。岐阜市柳ケ瀬や山形県酒田市、新潟県上越市における出店時に開催して事前に地元の課題をつかみ、店舗の品ぞろえやサービスに反映させてきた。
4回目の今回は、東武動物公園駅前の出店に先立つ20年秋に開催。社内公募で集まった良品計画の社員に加えて東武鉄道や東武ストアの社員、宮代町役場の職員の合計22人が参加。地元でコミュニティーを運営する人の指導も受け、チームに分かれて現地の視察やワークショップなどを重ねた。
こうした活動の背景には、地域のコミュニティーデザイナーの存在が大きい。例えば、シェアアトリエ「つなぐば」を運営する、つなぐば家守舎(埼玉県草加市)社長の小嶋直氏も、その1人だ。研修の講師として地域の魅力を伝えたり、地域で活躍する人を紹介したりした。地域の人からは「毎日のように地域を訪れ、地域に根差そうと熱心に活動する良品計画の姿勢に共感した」と話す声があったほど。それだけ地域からの信頼感は強いようだ。
東武鉄道から研修に参加した、生活サービス創造本部まちづくり推進統括部大規模開発担当主任の長妻治輝氏は、「たくさんの時間をかけて地域を知り、本当に必要なサービスは何かを考えるという姿勢は参考になった」と話す。研修では、農家を訪問して稲刈りを体験したこともあったという。
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