新生! 無印良品“第二創業”の戦略 第5回(写真)

全国のさまざまな地域に無印良品の店舗を出店しようと計画している良品計画にとって、地域の課題を解決し、地域を活性化させなければ、「第二創業」にはつながらず、今後は先細りになるだろう。こうした状況を解消しようとした好例が、福島県浪江町にある道の駅に出店したプロジェクトだ。

2020年8月にオープンした商業施設「道の駅なみえ」の中に無印良品の店舗がある(写真提供/良品計画)
2020年8月にオープンした商業施設「道の駅なみえ」の中に無印良品の店舗がある(写真提供/良品計画)
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 福島県浪江町は、2011年の東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所事故の影響で、全住民が避難を余儀なくされた。19年に一部エリアの避難指示が解除され、住民は次第に戻りつつある。食品スーパーや飲食店、病院や警察・消防といったインフラも整い、事故前にいた約2万1000人の住民のうち、21年8月末までに約1700人が戻ってきている。浪江町の面積の約7割がまだ帰還が困難なエリアだが、今後に期待がかかりそうだ。

前回(第4回)はこちら

 浪江町の復興計画の一環で、20年8月にオープンした商業施設が「道の駅なみえ」だ。一般社団法人まちづくりなみえが運営。地元の野菜や海産物、日本酒などを販売するほか、「なみえ焼そば」「しらす丼」といったご当地グルメも味わえる。国道6号線と国道114号が交差する場所にあり、平日に訪れると駐車場はほぼ満杯だった。多くの来場者が土産を選んだり食事を楽しんだりしていた。浪江町役場のすぐそばにあり、以前は田んぼだった土地を造成。浪江町の復興のシンボルと位置付けた。

 復興を支援するため、良品計画は浪江町と20年に連携協定を締結。無印良品の店舗を出店するなど、地域振興や復興促進、産業・観光振興などの分野で協力するとした。浪江町が活用する総務省の地域活性化プログラム「地域おこし企業人」制度(21年度から「地域活性化企業人」に名称変更)より、良品計画の社員1人を浪江町役場に21年2月に派遣。店舗運営の支援のほか、地域産品の販路拡大や認知度向上などを目指した。そして21年3月に新店舗「無印良品 道の駅なみえ」をフランチャイズ形式で出店した。

無印良品の店舗には、もともとコンビニが入る予定だった
無印良品の店舗には、もともとコンビニが入る予定だった
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店内の様子。日用品や衣類などを主に販売している。無印良品の標準的な店舗での取り扱いアイテム数は約7500アイテムだが、道の駅なみえでは約400アイテムを置いている。無印良品の店舗では小さい部類になる
店内の様子。日用品や衣類などを主に販売している。無印良品の標準的な店舗での取り扱いアイテム数は約7500アイテムだが、道の駅なみえでは約400アイテムを置いている。無印良品の店舗では小さい部類になる
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カレーやバウムクーヘンといった無印食品ならではの食品も人気
カレーやバウムクーヘンといった無印食品ならではの食品も人気
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 「単に観光客を呼び込むためだけでなく、帰還した住民が集まる場所をつくり、住民の生活を支援することも道の駅なみえの目的だった。そこで無印良品の商品力やブランド力に注目し、道の駅なみえだけでは用意しにくい商品を販売するようにした。無印良品の出店後、道の駅なみえの来場者数は約2割増になった。親子連れや30~40代の女性が来るようになり、隣町から訪れる人もいる」と浪江町役場産業振興課商工労働係副主査の大柿光史氏は話す。

廃校になった小学校の黒板を伝言板代わりに

 無印良品の店舗としては小規模な部類になるだろう。入るとすぐ右に小さな黒板があり、来店客が自分の要望を付箋に書いて、伝言板のように貼れるようにしている。こんな商品が欲しい、こんな商品を仕入れてください、といった内容が書かれた付箋には「今後、仕入れます」など店員が書いた付箋が重ねて貼られていた。その黒板は廃校になった浪江町の小学校から譲り受けたもの。その場で付箋に書けるように店内に置いた小さな机と椅子も、小学校にあったものを生かした。住民にとっては懐かしい思いになりそうだ。ほかにも、地元日本酒の酒樽(さかだる)を商品の陳列に利用するなど、浪江町にある店舗ならではの内装の工夫が随所にある。

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