
2021年9月、無印良品を展開する良品計画の社長に、営業本部長などを務めてきた堂前宣夫氏が就任。新体制がスタートした。同7月に堂前氏が中心となって策定した中期経営計画の実現へ本格的に動き出す。「第二創業」という言葉を掲げる中期経営計画では、無印良品の店舗が地域課題の解決や街づくりへの貢献に最優先事項として取り組むという。さらに30年には売上高を3兆円にする大胆な目標も立てる。社会貢献と売り上げ拡大をどう両立していくのか。堂前新社長に聞いた。
コロナ禍の店舗休業の影響で、2020年8月期(3~8月)は最終損益が169億円の赤字となった良品計画だが、巣ごもり消費で食品や収納用品の売り上げが好調で急回復。21年8月期は、一転して過去最高益を達成する見通しだ。そうした中でスタートした“堂前体制”に社内外の期待がいや応なしに高まっている。
堂前宣夫氏が良品計画をどのように発展させていくか。その将来像が明文化されているのが中期経営計画に他ならない。文字を中心に構成された資料は55ページにも及ぶ“大作”だが、企業理念や使命(ミッション)、経営方針など、今後、良品計画が何を目指すかが書かれている。
良品計画が2030年にあるべき姿として示したのは「個店経営を軸とした地域密着型の事業モデル」だ。
個店経営とは、無印良品の各店舗の店長や社員が主役となり、本部主導ではなく、店舗が自律して運営を行う組織として活動するということ。個店経営を実践している企業は他にもあるが、無印良品の最大のミッションは利益追求ではなく「地域貢献」だ。地域の課題は千差万別でそれらの一つひとつに本部主導で対応することは非現実的。現場で判断し、行政や他の事業者を巻き込みながら素早く動くことが必要となるため、個店経営を実践すると中期経営計画では言及している。
例えば、東京都江東区にある、20年12月にオープンした「無印良品 東京有明」では、同社初となる「くらしなんでも相談所」を開設。開業1年前から地域の住民にインタビューやアンケートを行い、聞き出した悩み事を基に開発した東京有明ならではのサービスで、相談を受けたアドバイザーが実際に客の自宅を訪問して持ち物を整理したり、部屋の収納の改善を行ったりする。その他にも自治体と連携したリサイクル活動を行うなど、単に商品を売るだけでなく、地域課題の解決や地元に密着したコミュニケーションを売りにしている。
無印良品に鮮魚が並ぶ
また、21年5月に全面開業した横浜市の「無印良品 港南台バーズ」では、食品売り場に何と鮮魚が並ぶ。スーパーのクイーンズ伊勢丹や鮮魚専門店と組んだ大型食品売り場で、地元の神奈川県産を中心とした青果や食肉など数多く取りそろえているのが特徴だ。
さらに道の駅への出店も広げている。21年3月、福島県浪江町の「道の駅なみえ」に無印良品が出店。運営は地元の一般社団法人「まちづくりなみえ」が行うなど、地元をより豊かに魅力的に再生・復興させることを目的としているのが特徴だ。
こうした地域密着型のミッションを実現する目的で、良品計画が新たに立ち上げたのが「地域事業部」。地域住民や行政と交流・連携をしながら地域密着型の事業モデルを確立するために設置された新組織だ。当初は「京都・奈良・南大阪」「千葉・会津」「横浜南」「広島」「北海道」など12のエリアであらゆる施策を実践し、収益性を担保しながらそれぞれの地域に合ったモデルを構築していく。
中期経営計画にある地域密着型事業モデルのイメージは、人口60万人当たりに、全ての商品やサービスを提供する「くらしの全部店」を1店舗、食品スーパーの隣接地などの生活圏に標準店を6店舗、さらに駅前店やコンビニ販売などを組み合わせたもの。こうしたフォーマットを各地域で開発し、全国に広げる。
こうした出店攻勢により、中期経営計画の最終年度の24年にはグローバルの店舗数を現在の980店から1300店に増やし、売上高を21年8月期の4900億円(見通し)から24年8月期には7000億円にまで拡大させる計画だ。さらに30年8月期には2500店舗、売上高は3兆円を目標としている。
高い理想と強気な出店戦略――。堂前氏はどのような思いで、こうした野心的な計画を立てたのか。その真相を直撃した。
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