「PayPay」投資回収スタートで何が変わる? 第1回(写真)

「PayPay」を運営するPayPay(東京・千代田)は、3年間無料で提供してきた中小小売店向け決済手数料を2021年10月1日から有料化。一方、「楽天ペイ」を運営する楽天ペイメント(東京・港)は、これまで3.24%だった同様の手数料を1年間の期間限定で実質0円に引き下げた。この楽天ペイの決断を見て、競合するNTTドコモやKDDIも、22年9月末まで同じく手数料0円で追随する。こうしたコード決済事業者の動きにより、中小小売店の開拓は進むのか、はたまた事業者は成長できるのか──。特集第1回では、PayPayの狙いをまず読み解く。

PayPayは決済手数料有料化を発表後、ユーザーの利用喚起を目指した大規模キャンペーンはそのまま展開しつつ、「町のお店を応援する」というメッセージと取り組みを前面に押し出し始めた(出所/PayPay)
PayPayは決済手数料有料化を発表後、ユーザーの利用喚起を目指した大規模キャンペーンはそのまま展開しつつ、「街のお店を応援する」というメッセージと取り組みを前面に押し出し始めた(出所/PayPay)

 PayPayは事業開始から2021年9月30日までの約3年間、店舗がコードを提示してそのコードを消費者がスマートフォンで読み取る「MPM方式」でPayPayと直接契約した加盟店については、決済手数料を無料とするキャンペーンを実施してきた。おかげで大手チェーンだけでなく個人経営が多い中小小売店も、PayPayのQRコードを印刷した紙を1枚店頭に置くだけで、PayPayのQRコード決済を比較的容易に導入することができた。

【特集】「PayPay」投資回収スタートで何が変わる?
【第1回】 PayPay、収益化へ「3つのシナリオ」 破格の手数料1.6%で勝負←今回はココ
【第2回】 楽天ペイ、PayPayから引き剥がし狙う奇襲 コード決済は2強へ?

 その結果が、340万カ所超(21年7月末)という加盟店の数である。PayPayアプリのユーザー数も累計で4100万人(同)を突破。キャッシュレス推進協議会の調べによれば、20年1~12月の国内のQR・バーコード決済市場約4兆2000億円のうち、PayPayの取扱高は約2兆8000億円、市場シェアにして約68%に達している。この3年でサービスが普及してきたQRコード決済事業者の中では、まさに「1人勝ち」と言ってよい。

2021年8月19日のPayPayの記者会見で、これまでの成果をアピールする。右はPayPay代表取締役社長執行役員CEO(最高経営責任者)の中山一郎氏
2021年8月19日のPayPayの記者会見で、これまでの成果をアピールする。右はPayPay代表取締役社長執行役員CEO(最高経営責任者)の中山一郎氏
QR・バーコード決済市場の占めるPayPayの市場シェア
QR・バーコード決済市場の占めるPayPayの市場シェア
Zホールディングス2021年度第1四半期決算説明会(21年8月3日)資料より

 だが業績に目を転じると、楽観はできない。なぜならPayPayは、売上高こそ5億9500万円(19年3月期)から299億8900万円(21年3月期)へと急伸したが、営業損益を見ると、21年3月期でも719億8500万円の営業損失を計上しているからだ。営業損失計上は3期連続であり(19年3月期は361億2100万円、20年3月期は834億6000万円の営業損失)、PayPayが抱える累積損失は2000億円近い計算になる。ユーザー向けのポイント大幅還元キャンペーンや、加盟店向けの決済手数料無料キャンペーンなどを先行投資と割り切って大盤振る舞いすることで、急速な普及を実現できた代わりに、大赤字を背負い込んだ格好だ。

■PayPayの業績推移
■PayPayの業績推移 売上高急伸の一方で営業損失が続く
売上高急伸の一方で営業損失が続く

 ソフトバンクグループ全体で見れば、PayPayが赤字覚悟の先行投資で決済インフラを市中に広げ、ヤフーなどグループ内の事業会社がそのインフラ上で収益を稼ぐという構図が当初から描かれてはいた。とはいうものの、PayPayも企業である以上、どこかで収益を確保する道筋を付ける必要はある。

中小小売店の決済手数料は競合を下回る原則1.98%に

 そこで、約4100万人のユーザー、約340万店の加盟店を獲得し、QRコード決済事業者トップの座を揺るぎなくしたことを受け、当初の約束通り、キャンペーン開始から3年後となる21年10月1日に、中小小売店(年商10億円以下)の「MPM方式」の決済手数料の有料化に踏み切るのだ。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

25
この記事をいいね!する