リアルタイムマーケティング 第2回(写真)

リアルタイムマーケティングを実施するための広告ソリューションのうち、注目なのが「ビーコン(近距離無線通信端末)」の活用だ。LINE、ジェイアール東日本企画(東京・渋谷)、リアル行動データベンチャーのunerry(東京・千代田)が相次いでビーコンを活用した広告商品を展開。ひそかに過熱するビーコン広告の陣取り合戦により、リアルの場とデジタルを連動した広告プラットフォーム市場が形成されつつある。

(写真/Shutterstock)
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 米アップルがBluetooth(近距離無線技術)を活用した新たな機能「iBeacon」を「iPhone」に搭載したのは2014年のこと。ビーコンと呼ばれるIoT端末と連係して、短距離でスマートフォンアプリなどにプッシュ通知を送ったり、来店を検知したりできる機能だ。アップルの発表後、すぐに商業施設や自治体などが、この新たな機能を情報発信の手段として目を付けた。広告代理店などと手を組み、14年~15年にかけてビーコンを活用した集客策や人流分析の実証実験を相次いで実施。実験のために商業施設や観光施設など、さまざまな場所にビーコンが設置された。

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 ところが、そうしたビーコンの多くは継続的に使われず、持て余している状態だったという。リアル行動データを活用したマーケティング支援サービスを開発するunerry(東京・千代田)CMO(最高マーケティング責任者)の内山麻紀子氏はこう指摘する。「プッシュ通知を送れる人数が数百人程度では、事業会社は本格展開しない。実証実験で開発したアプリを継続する事業者は少なく、放置状態のビーコンが大量に残っていた」

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 unerryはこの余剰資産に目を付けた。ビーコンが使われない最大の課題は「リーチ」だ。単一事業者が活用する場合、まず自社のアプリ利用者数が増えなければそもそも情報発信先が増えない。さらに、Bluetoothを利用して配信するため、アプリ利用者がBluetoothの利用を許諾している必要がある。これにより、さらに配信対象の分母が減る。そこで、unerryはビーコンをネットワーク化することでリーチを補おうと考えた。

 そうして開発したのが「Beacon Bank」だ。これは個別の企業が管理していたビーコンを一括管理し、相互利用できるようにする仕組み。顧客接点のビーコン設置企業と、情報配信先となるアプリ保有者の両方が参加できる。Beacon Bankに参加すると、登録されている自社以外のビーコンを活用した情報発信が可能になるため、広域の接点で情報発信できるようになる。現在Beacon Bankに登録されているビーコン数は210万カ所に上る。

「Beacon Bank」はネットワーク化したアプリとビーコンを相互活用できるプラットフォーム
「Beacon Bank」はネットワーク化したアプリとビーコンを相互活用できるプラットフォーム
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 一方、アプリ事業者はunerryが提供するSDK(ソフトウエア開発キット)を活用して、ビーコン連係機能を開発しやすくなる。例えば、来店者の検知やビーコンを通じたプッシュ配信といった機能を自社アプリに追加できる。このSDKの導入アプリが、Beacon Bank参加企業となる。SDK導入アプリの累計ダウンロード数は1億1000万件を超えるという。

余剰ビーコンをネットワーク化し、広告開発

 このビーコンとアプリのネットワークなどを活用した広告商品が「Beacon Bank AD」だ。単にビーコンでの接点を起点に広告を配信できるだけでなく、蓄積した移動情報を基に配信対象を絞り込めるのが特徴だ。広告配信は、連係するSNSなどへの広告配信と、参加するアプリへのプッシュ通知を活用した広告配信の2つを用意している。Beacon Bankに参加する事業者は、自社のビーコンやアプリをBeacon Bank ADの対象とするかどうか協議・選択できる。広告配信の対象となる場合は、新たな広告収益を得られる。

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