本連載では4回にわたり、サード・パーティー・クッキーがデジタル広告の世界で果たしてきた役割や代替技術が持つ可能性、脱クッキー時代の本質である顧客と向き合うことの重要性を解説してきた。これらを踏まえ、脱クッキー時代に備え、まずは自社の「クッキー耐性」を知ることが重要だ。最終回となる本記事では、4象限で自社の状況をマッピングするフレームワークを紹介する。耐性強化のために実施する施策の優先順位を考える上で参考にしていただきたい。
マッピングするためのマトリクスには、「Google」や「Facebook」といった膨大なユーザー数を誇り、かつ内に閉じた巨大プラットフォームである「ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭)」と、ウォールドガーデンを除く一般的なネット広告メディアを中心とする「オープンWeb」を横軸、「自社の顧客データ」と「他社のユーザーデータ」を縦軸に設定した。デジタルマーケティングに活用するデータや広告プラットフォームの比重から、自社のクッキー耐性を見極める。
例えば、「パブリックDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」は、サード・パーティー・クッキーでさまざまなネットメディアから収集した「他社のユーザーデータ」を広告に活用したサービスの代表例だ。自社のデジタル広告の出稿比率のうち、パブリックDMPなどを利用したオープンWebの比重が高い場合は、4象限の左下にマッピングされ、クッキー耐性としては最も評価の低いCランクに当たる。
もし、クッキー耐性がCランクに該当する場合、まずは1つ目のステップとして、脱クッキーの影響が受けにくいウォールドガーデンの広告を中心としたプランニングに変えていくことをお勧めする。ウォールドガーデンは、自社のIDを軸とした広告データの基盤を築いている。例えば、Google広告では、米グーグルが提供するサービスを利用中のログインユーザーに対して、検索履歴やYouTubeの動画視聴履歴などを基に推定される興味・関心に基づくターゲティングで、さまざまなグーグルのサービス内に広告を配信できる。
そのデータはプラットフォーマーにとってファースト・パーティー・データに当たるため、クッキー規制の影響が少ない。まずは、各プラットフォーマーの持つユーザーデータを基にした広告サービスを活用するとよいだろう。
さらに一歩進んだ取り組みとして、他社のユーザーデータを活用して、ウォールドガーデンに広告を配信する方法もある。
本連載の第3回でも紹介した、CCCマーケティング(東京・渋谷)の広告サービス「TポイントAds」もその1つ。広告配信に許諾しているTポイント会員のメールアドレスや電話番号とGoogleアカウントを突き合わせて、マッチしたユーザーに対して広告を配信できる。Googleの検索やYouTubeなどのGoogleサービス内の配信であればクッキーに依存しない。こうした、プラットフォームを有効活用した広告配信の比率が高くなると、クッキー耐性はBランクになる。
<第3回:広告主が知るべき4つのクッキー代替技術 「MMM」とは何か>
自社の顧客データを広告配信に活用
クッキー耐性がBランクの企業にはさらに一歩進んだ施策として、2つ目のステップである、自社の顧客データを用いてウォールドガーデンに広告を配信する手法が候補になる。例えば、Facebook広告では、自社の顧客データを暗号化した上でFacebook広告システムにアップロードし、Facebookユーザーのデータと突き合わせて広告配信できる。3カ月間購入履歴がない離反顧客に対して、Facebook上で広告を配信して呼び戻すといった具合だ。
さらに、同じ傾向を持つ類似ユーザーにも広告を配信できる。年間購入金額が高い優良顧客のデータをアップロードし、Facebook上でその顧客と近しい行動をとっているユーザーに広告を配信するといった手法だ。闇雲に広告を配信するよりも、優良顧客化が期待できる層に広告を配信したほうが効率は良い。
効果計測についてもファースト・パーティー・データを用いる手法が今後は主流になりそうだ。顧客がコンバージョンした際に入力したメールアドレスや電話番号といった顧客データを暗号化し、広告主のサーバー経由で、Facebookのシステムに送信する仕組みである「コンバージョンAPI」がすでに提供されている。
他社データに依存せず、自社データを用いて広告配信できる強い顧客データを保有する企業はAランクに位置する。まずはここを目指すべきだろう。
とはいえ、ここまでの取り組みはサード・パーティー・クッキーに依存したオープンWeb広告からの脱却の推進にすぎない。プラットフォーマーに依存したプランニングでは、プラットフォーマー側のサービス変更などの影響をもろに被ることになる。クッキー耐性の高まりと同時に、今度はプラットフォーマー耐性が弱体化しかねない。
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