脱クッキー時代には、「ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭)」と呼ばれる大手プラットフォーマーの力がさらに強まりそうだ。広告専業会社は対抗策として、クッキーに代わる新たな広告配信の仕組みづくりを急ぐ。広告主はウォールドガーデンや新たな広告配信技術とどのように付き合っていくべきだろうか。代替技術を図解しながら、検討すべき選択肢を考えてみたい。
デジタルマーケティングに従事する方であれば、ウォールドガーデンという言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。「Google」や「Facebook」といった膨大なユーザー数を持ち、かつIDにひも付く形で閉じた世界でデータが使われる巨大プラットフォームを揶揄(やゆ)する表現だ。近年では米アマゾン・ドット・コムも広告事業を展開し、急速に市場シェアを伸ばしている。米国の調査会社イーマーケターによれば、この3社の米国における2020年の広告売り上げは、同年のデジタル広告売り上げ全体の約65%を占めている。
このウォールドガーデンの対をなすのが「オープンWeb」だ。ウォールドガーデンが所有しない外に開かれたWebの世界を指すものと考えてもらっていい。一般的なWeb媒体など、ログインを必要としないサービスを指す。オープンWebでは媒体社が個別に広告枠を販売するだけでなく、広告技術会社などが、複数の媒体を束ねた広告ネットワークを構築している。
その裏側でサード・パーティー・クッキーが活用される。広告技術会社が開発するDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)は、サード・パーティー・クッキーで媒体横断でアクセスログなどのデータを取得する。このデータを使い、広告掲載の面だけでなく人(ブラウザー)ベースでのターゲティングを実現してきた。
ログインユーザーとクッキー依存の匿名ユーザー
では、広告のターゲティングの観点でウォールドガーデンとオープンWebを比較してみよう。
ウォールドガーデンの筆頭格である米グーグルは検索サービス、動画配信プラットフォーム「YouTube」、無料メールサービス「Gmail」、地図サービス「Google Maps」といった複数のサービスを、ログインユーザーのGoogleアカウントのIDにひも付く形で展開。「ID経済圏」とも呼べる独自の経済圏を築いている。
YouTubeだけでグローバルでの月間ログインユーザー数は20億人を超える。広告主は、Google広告でこれらサービスのユーザーに対して広告を配信できる。ユーザーがログインしている場合、Googleサービスでの設定や行動に基づくユーザー属性をターゲティングメニューとして使用できる。米フェイスブックやアマゾンにも同様のことが言える。
一方で、オープンWebの世界においては、広告買い付けシステムであるDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)と、広告媒体を束ねるSSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)が広告枠の売買を行う。ウォールドガーデンと異なり、これらのサービスの開発会社はあくまで広告取引の仕組みの開発者にすぎない。一般消費者に対して直接サービスを提供していないため、そもそもログインの概念がない。そのため、広告配信のデータの収集はサード・パーティー・クッキーに依存せざるを得ない。
脱クッキー時代において、ウォールドガーデンはIDベースのターゲティングを引き続き提供できる一方、オープンWebで従来と同様の広告配信を維持するには、サード・パーティー・クッキーの代替手段が必要不可欠となる。
この代替技術を巡る覇権争いは既に始まっている。米グーグルは代替手段として「プライバシーサンドボックス」を提唱する。プライバシーサンドボックスについては、第1回で詳しく解説した(関連記事「グーグルの代替技術から浮上 脱クッキー時代に2つの潮流」)。一方、米DSP大手のザ・トレード・デスク主導で開発を進めているのが、「Unified ID 2.0(以下UID 2.0)」と呼ばれる広告配信に特化したIDだ。
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