今回は、一般社団法人日本社会イノベーションセンター(JSIC、東京・文京)の教育プログラム「i.school」のアイデア創出ワークショップの基となった学術的知見の一部を紹介する。創造性に関するさまざまな研究により、誰もが論理的に「ひらめき」を起こせることが分かってきた。

「i.school」のアイデア創出ワークショップでファシリテーターが利用するシステム。参加者の表情や動きなどもモニターしており、アイデア創出との論理的な相関を分析している(写真提供/一般社団法人日本社会イノベーションセンター)
「i.school」のアイデア創出ワークショップでファシリテーターが利用するシステム。参加者の表情や動きなどもモニターしており、アイデア創出との論理的な相関を分析している(写真提供/一般社団法人日本社会イノベーションセンター)
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 「ひらめき」とは神秘的なものではない。科学の対象となる現象であり、創造的なアイデアの創出には共通するプロセスが存在する。ひらめきの前には孵化(ふか)と呼ばれる段階があり、そこでは準備の段階で活性化された意識に上らない概念が、何らかのきっかけから意識に上って、ひらめきが生じる。

 認知心理学では、組み合わせ、メタファー(比喩)、アナロジー(類推)による創造性が研究されてきた。日常生活ではアナロジーを頻繁に活用しているにもかかわらず、実験ではアナロジーをうまく活用することが難しいというパラドックスを解くために、1980年ころから約20年にわたって研究が積み重ねられた。その結果、アナロジーを活用する目的によってうまくアナロジーを使えるかどうかが決まることや、記憶や想起の方法が違いを生み出すといったことが明らかとなった。これらの知見を、i.schoolのアイデア創出ワークショップの設計やファシリテーションに生かしている。

アルキメデスの「アハ体験」は本当か

 特別な人だけが優れたアイデアを思いつくことができると、なぜ多くの人々が信じているのだろうか。偉大な科学的発見、難問の解決、芸術的傑作の創造、そしてイノベーションにつながるアイデアの発想、これらは類似性の高い知的活動における現象である。これらを成し遂げることができる人は限られており、その偉業の希少性や生み出す価値の大きさを反映して、彼らは天才と称され、彼らが語ったアイデア発想の瞬間のエピソードは強烈な印象を人々に与え、天才や天啓のイメージが創り上げられた。