一般社団法人日本社会イノベーションセンター(JSIC、東京・文京)の教育プログラム「i.school」だけでなく、多くの研究機関ではワークショップによるアイデア創出を狙っている。学術的知見では、1人の天才によるひらめきより、イノベーションに結びつきやすいことが分かっているからだ。ワークショップの設計や運営が適切なら、グループのほうが成果を出しやすい。
アイデアがすぐにイノベーションにつながるわけではない。イノベーションが起こるプロセスを、(1)革新的な製品やサービスのアイデアを発想する、(2)アイデアが実際にイノベーションにつながる仮説を検証する、(3)仮説検証された製品、サービスのアイデアを事業化する、(4)事業の規模を拡大し本格事業にする、という4段階に分けて考えることにする。(1)と(2)の部分を 0→1、(3)を1→10、(4)を10→100 ないし1000のように表すことが多い。
(2)~(4)の段階においては、関わる人や組織の数が増えていき、多くの人の協働が不可欠であるのは当然であるが、アイデア創出の(1)もグループで行うことがいくつかの理由で望ましい。1人の天才が優れたアイデアを創出するのは非常にまれだ。実際、企業の開発現場や教育プログラムでは複数の参加者によるワークショップという形態でアイデア創出が行われている。
ワークショップというのは多義的な言葉で、文脈によってさまざまな活動を指すが、ここでは、所与の目的を達成するために複数の参加者が協働する活動を指す。ワークショップ設計などの準備をする者をワークショップデザイナー、ワークショップで参加者に指示を出すなど運営する者をファシリテーターと呼ぶ。ファシリテーターがワークショップデザイナーを兼ねることも多いため、ワークショップデザイナーをファシリテーターと呼ぶ場合もある。
(1)~(4)の全ての段階を含めて、実施されるワークショップを本連載では「イノベーションワークショップ」と呼ぶが、特に(1)の段階で行われるワークショップが本連載のテーマであり、「アイデア創出ワークショップ」と呼んでいる。
創造性は個人の資質や特性ではない
人間の創造性に関する研究は1950年代より本格化した。その理由はいくつかある。1つ目の理由は、客観的観察の対象にならない意識は心理学の枠内から追放されるべきだと主張した行動主義の呪縛が解かれたことにある。
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