ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。人工知能(AI)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回は凸版印刷執行役員でDXデザイン事業部長の柴谷浩毅氏を迎え、同社がDX事業に取り組み始めたきっかけや社内の変化について議論した。(対談が行われたのは2022年4月12日)

石角友愛氏(以下、石角) 凸版印刷というと紙やパッケージなどの「印刷の会社」というイメージがあったのですが、今はテレビCMなどで「DXに強い会社」として打ち出しをされていますね。経済産業省の「DX認定事業者」、東京証券取引所の「DX銘柄」にも選ばれています。これには、やはり紙からデジタルへという時代の変化が影響しているのでしょうか。

柴谷浩毅氏(以下、柴谷) おっしゃる通りですね。弊社は1900年の創業以来、印刷を中心に事業を展開してきました。ですが印刷市場は1990年代にピークを迎え、2000年代に入ってからは右肩下がりです。2019年の市場規模はピーク時の6割を切っています。この衰退を見ていて、従来の印刷事業だけで生き残っていくのは難しいと考えるようになりました。そこで現在、事業ポートフォリオの大転換を図っています。

石角 21年に発表された中期経営計画のことですね。

右肩下がりの印刷市場から、凸版印刷がどうやってDXへと舵(かじ)を切ったかを語る柴谷浩毅氏(写真左)
右肩下がりの印刷市場から、凸版印刷がどうやってDXへと舵(かじ)を切ったかを語る柴谷浩毅氏(写真左)

柴谷 はい。2021年度は既存事業が全社営業利益の4分の3程度を占めていましたが、今後は海外生活系やフロンティアビジネス、そして「Erhoeht-X(エルヘートクロス)」というDX事業を重点事業として伸ばしていきます。特にDX事業は25年度には全体の3割程度まで拡大することを目指しています。

石角 先ほど印刷市場は1990年代がピークだったというお話がありましたが、いつごろからデジタル関連事業に取り組み始めたのですか。

柴谷 2000年ごろから社内には「従来の印刷事業は、いつかなくなるのではないか」という危機感がありましたね。そこで2001年に電子チラシサービスの「Shufoo!(シュフー)」を始めるなど、デジタルのサービスも展開するようになりました。一方で「そうはいっても、印刷はなくならないだろう」という見方は根強く、印刷とデジタルを併走させる状態が続きました。その状況が大きく変わったのが17年です。

石角 17年に何があったのですか?

柴谷 印刷事業の数字がガクンと落ちました。大きな事件や社内外の問題があったわけではなく、しばらく何が原因なのか分かりませんでした。ですがお客さまへの聞き取りを進めてみると、次第にその背景らしきものが見えてきたのです。

 17年はちょうどスマートフォンやタブレット端末などのデジタルデバイスが一通り普及したタイミングでした。そして弊社のお客さまの多くがデジタルの活用を始めていたのです。当時はあくまで“お試し”であって、全面移行するつもりはなかったようですが、我々に与えたインパクトは大きかった。社内からは「本格的にデジタルに軸足を移していかなければまずいのではないか」という声があがり始めました。

新しいビジネスモデルを社長に直訴

石角 “お試し”とはいえ、一度デジタルの魅力を知ってしまえば、顧客企業がそちらに移行してしまう可能性はありますよね。御社ではどういった対応を取られたのですか。

柴谷 本気でデジタル関連の事業を開発・展開していこうと、17年秋に当時社内でデジタルに携わっていたメンバーが有志で集まって「T-DX(Toppan Digital Transformation)プロジェクト」を発足させました。毎週、夜遅くまでDXについて議論を重ね、当時の金子眞吾社長(現会長)と経営企画本部長だった麿秀晴専務(現社長)にDXビジネスに関する提案をしました。このT-DXが現在のDX事業「エルヘートクロス」の原型です。

石角 17年からDXを本気で考えられていたというのは、日本の大企業としてはかなり早いですね。当時の社長にはどういった内容を提案されたのですか?

柴谷 「データの収集」「データの分析」「サービスの提供」の3つの機能を統合した「データ駆動型ビジネスモデル」の展開です。

 「データ収集」については、すでにICカードやRFID(近距離無線通信を用いた自動認識技術)などのものづくりを行っており、実行できる基盤はありました。「サービス提供」も、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスを展開しており、実績があります。一方で「データ分析」については社内に機能がありませんでした。そこで新たに「データ分析」の機能をつくることで、3つの機能を一体化したビジネスモデルが構築できると考えたのです。

石角 DXの核心をついたモデルですね。3つがそろえばトータルで顧客企業をサポートできます。新たに構築する必要のあるデータ分析についても、御社の数万社の顧客基盤を最大限活用できます。

 ただ、私がこれまでさまざまな企業のDXのアドバイスや実装サポートを行ってきた中で、印刷などの受注型ビジネスを続けてきた企業が提案型のビジネスに乗り出す際、社内に基盤がなく苦労されるケースが多い印象があります。

柴谷 このビジネスモデルは、ITソリューションと既存のBPOを融合させたものです。つまりゼロから提案型ビジネスを始めるのではなく、BPOの延長でデータ分析を行う位置づけなのです。

 BPOを行っていると、お客さまの現場の情報やデータに触れる機会は少なくありません。そこで許可を得たうえでそれらの情報を分析して、活用方法を提案する。そして提案を見たお客さまから正式にご依頼いただいた場合には、コンサルタントまで踏み込んで展開していきます。

石角 なるほど。BPOに軸足を置きつつデータ活用やコンサルなどの上流工程のサービスにつなげていくのですね。御社の強みを生かした、とてもいい流れですね。

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