P&Gをはじめ、ダノン、ユニリーバ、日産自動車、資生堂など大手各社のマーケティング部署を指揮してきたクー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏が薦める、常に消費者目線で意思決定ができるツール「パーセプションフロー・モデル」とは何か。導入すれば、「欲しい」から「購入」までに、どういう知覚刺激(トリガー)を用意したのかなどの情報を部署間で共有しやすくなるという。音部氏と石角友愛氏が議論する後編。

〈中編はこちら

音部 「パーセプションフロー・モデル」は、慣れると便利です。また、常に消費者目線で意思決定ができるツールです。いろんなテクノロジーが出現するとついつい部分最適したくなりますが、新しいテクノロジーをどこに入れたらよいかというのは案外難しいのです。大事なのは消費者のパーセプションや、知覚されたベネフィットを考えたときに、消費者にとってどんなメリットがあるかということだと思います。パーセプションフロー・モデルを導入すると、常に消費者目線になります。例えば、米Amazon.comの共同創設者であるジェフ・ベゾス氏がミーティングを開催するときに空席を一つ用意するというのは、消費者を可視化するためのいいギミックだと思います。目の前に上司や役員しかいないといったミーティングでは、消費者のことを考える場合ではなくなってしまいますよね。

石角 そうですね。

音部 パーセプションフロー・モデルは、消費者のパーセプションがどう変化するかをフローチャートにしているため、消費者から目をそらすことができなくなります。仕組みとしてコンシューマーセントリックになっていきます。その空席に実際に消費者が座っているわけでもなく、絵が描かれているわけでもないため、何に依存するかというと、データに依存するわけです。

音部氏が考案した「パーセプションフロー・モデル」
音部氏が考案した「パーセプションフロー・モデル」

 このモデルは、(1)全体を俯瞰(ふかん)し、(2)消費者中心になり、(3)汎用性が非常に高いことが特徴です。洗剤や化粧品などのFMCG(Fast Moving Consumer Goods)や自動車・オートバイ、電力、放送、薬、塾、DtoCなど、全て試したわけではないですが、業界問わず転用されているため、汎用性が高いです。Amazonの自動発注などは例外ですが、人が意思決定するBtoBでも適用されています。複数ブランドを持っている企業はラーニングの共有がしやすくなります。

石角 面白いですね。消費者は同じですものね。

音部 そうなんです。例えば、1000億円の売り上げ規模がある会社が500億円規模のAブランド、300億円規模のBブランド、200億円規模のCブランドの3つで構成されているとします。この場合、横の知識連携がないと、この会社の知識規模はAブランドの500億円で止まってしまいます。せっかく1000億円の売り上げ規模があるのにもかかわらず、ラーニングの規模が500億円に減少してしまうともったいないですよね。横に連携することができると、一番売り上げが少ない200億円のCブランドも1000億円分のラーニングが得られるため、1年間で同じ規模のブランドと比較したときに単純計算で5倍のラーニングを得ることができます。そして、500億円のAブランドが経験したことを、200億円のCブランドと共有するためには共通言語が必要です。

 共通言語の一つとして、「パーセプションフロー・モデル」を導入しておくと、「欲しい」から「購入」までに、どういう知覚刺激(トリガー)を用意したのかなどが共有しやすくなります。こうして、小さなブランドのアーセナル(武器庫)も大きくなります。

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